2010年1月4日月曜日

ブラックホール戦争


ブラックホールが蒸発するとき、それまでブラックホールに落ち込んだ情報は失われるのか、そうでないのか?前者はホーキングが、後者は著者のサスキンドとゲージ理論の繰り込み可能性を示したトフーフトが主張し、彼らを中心とした1983年から始まる20年の論争の様子を解説したものです。

物理学の法則は、因果律が基本中の基本であり、どんなに複雑な現象でも、それを分解したひとつひとつの過程は因果律に従っていて、複雑な現象ももちろん因果律に従っている。ということは、現実には無理でも時間を遡ることは物理法則のレベルでは可能であるし、エントロピー(情報)の保存則と呼ばれる。けれど、ホーキングは
①ブラックホールが温度をもっていて、エネルギーを放出し蒸発する
②ブラックホールに入った物体は出てくることはできず、中心で粉々に粉砕される
ことから情報はブラックホールで失われ、ブラックホールにより因果律は破壊されることを主張した。

一方、著者は蒸発には情報が含まれていること、一方、ブラックホールに入った物体は中心で粉々になること、という二つの「こと」は量子論の量子は「波」か「粒子」かと同じ相補性をもつという大胆な主張「ブラックホールの相補性」を展開する。一見、ブラックホールの外と内での相補性は、情報がコピーされ2倍に増え、量子論と矛盾するように見えるが、ブラックホールに入った物体は外に出てこれないし、蒸発から得た情報をブラックホールの内側に送ろうとしても、先に突入した物体には絶対追いつかないことから量子論とは矛盾しない。

さらに、ブラックホールのエントロピーがブラックホールの体積ではなく面積に等しいことから、ホログラフィー原理という着想に辿り着く。また、ブラックホールはひも理論のひもがとぐろを巻いた状態で、その状態の数の対数がエントロピーであること、それがブチブチと千切れて失われるのがブラックホールの蒸発であること、などのクレイジーな主張を展開していきます。

物理はどれだけクレイジーになれるかが勝負の世界。500ページを超えるので読むのが大変ですが、楽しめる本です。来年の卒業研究は「ひも理論」のお勉強でもやろうかと考えています。

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