2011年3月25日金曜日

トリプルA 小説格付け会社



数年前にCDOの研究をやっていたこともあり、格付け会社についての興味もあったので読んでみました。黒木氏の本は、これが2冊目。1冊目に読んだ「獅子のごとく」はイマイチだったのですが、今回のは楽しめる作品でした。

「格付けとは、科学的なものでもなければ、公明正大なものでもありません。これはあくまで格付け機関の意見、つまりアナリストの意見でしかないのです。」ムーディーズ・ジャパン代表(1997年6月)

格付け会社が日本にどのように入り、「格付けは表現の自由に基づいた意見表明にすぎない」といいながら、いつしか債券の発行体におもねった依頼格付けで儲けるようになる。ムーディーズといえども現在は株式会社(2000年上場)であり、株主の利益を考えるなら儲けることを優先しないといけない。つまり、発行体の詳細な調査、解析の上で投資家に正確な情報を流すのではなく、発行体が満足する格付けが出るように努力する。格付け会社は市場の「中立な審判」でなく、「ヤンキースのヘルメットを被って資本市場で自らバットを振るプレーヤー」になってしまった。その結果、そもそもどうデフォルトが起こり、どの程度の損失が出るかよくわからないCDOなどの債権に「トリプルA」などの格付けを出すようになる。それが2008年のリーマンショックにつながっていく。

CDOの研究をやっていても、どうモデル化してよいのかまったく指針がないのが大変でした。過去のデータから、それを再現するような確率モデルを使うというのが本来だと思うのですが、それがない。仕方がないので、CDOの市場価格から、市場が損失をどのように見積もっているのかを逆算し、という研究を最後に、この分野の研究から離れたのですが、市場価格そのものが、どれほど信用できるのかがそもそも分からない。価格は大体において投資家の群れたい心理(=みんなと同じ値段をつける)の要素がある(競馬市場はその要素が比較的少ないので、集団知の研究に適していると考え、研究しているのですが)。CDOのあるトランシェのプレミアムは8bps(0.08%)だったとしても、それを額面どおりには受け取れないわけです。でも、それを信じて確率を逆算するしか、信じるものがなかった。苦しい研究でした。

この本の最後は日本の破綻に関する場面で閉められています。格付け会社マーシャルズの日本代表は、ここ5年で国債の借り換えができなくなり、さらに5年は海外で国債をさばくけれど、それも出来なくなって最後は韓国のようにIMFが介入する。「あれの意味はですね、日本人は能天気だから壁に激突するまで問題を意識しようとしない。しかしいったん激突して焼け野原になれば、皆真剣になって力をあわせて努力できる民族である」「この東京は、もう一度、焼け野原を経験することになるんでしょう」

まあ、そうなるのでしょうけれど、難しいのは10年なのか15年なのか、それとも5年なのか、誰にも分からないことです。私はどうせなら早めに破綻してほしいのですが。

あと、この本は最初「東スポ」に連載された小説だと、格付会社S&D!の方に教えてもらったのですが、誰が読んだのか。東スポの読者は金融マン?

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