2010年6月29日火曜日

Rで1次元セルオートマトン(ラスト)



Rで1次元セルオートマトンの続きです。これで最後(のつもり)。

今日「物理学実験I」という1年生の発表会の1回目が無事に終わりました。私のグループはウルフラムのセルオートマトン(CA)の最初の論文を読んで、情報演習室でシミュレーションを行い、その結果をもとにプレゼン資料を作成し発表するというもの。担当した15名を6+9名の2チームに分け、今日はセルオートマトンの基礎とライフゲームの紹介。来週がメインのCAのシミュレーションと渋滞学への応用。原著論文を読み、シミュレーションを実行して、内容を検証し、さらに渋滞の相転移までやって、プレゼンするという、どう考えてもミッションインポシブル(4回でやるので)。けれど、頑張って理解し、プレゼン資料をしっかり作成してく学生もいたり、その点では無理を承知でやったのには意味があったのかも知れません。来週の発表が見ものです。

この演習用に作成したファイルがCA_20100622.pdfと、RのスクリプトのCA.R,CA_Rule_no.R,CA_Traffic.Rです。ようやくRに慣れてきた気がしますが、まだまだグラフィック関係が使いこなせないので、もっと精進が必要みたいです。CA.Rがルールを手で与えてシミュレーションするもの、CA_Rule_no.Rがルール番号を与えてシミュレーションするもの。CA_Traffic.Rがルール184でシミュレーションし、流量を計算するもの。(詳しくはPDFファイルをご参照ください。)ウルフラムの論文を再現するつもりでしたが、フラクタル次元のところで力尽きています。

左の図は、車(c)が50台入る道で右側に車が進行する様子をシミュレートしたもの。車の台数を「「渋滞相」の一歩手前の「自由流相」になるように25台としています。最初の頃は、団子状態の小さな渋滞が発生していますが、すぐにほどけ、車、スペース、車、スペースと交互に車とスペースが連続する状態に変化していきます。車の流量も最大。26台以上だと、こうした配置が不可能なので、流量が減少に転じ、車の台数の増加とともに、流量は単調に減少していきます。右下図は、x軸が車の台数、y軸が流量(動いた車の台数)をプロットしたもの。25台のときに流量が最大で、それ以降では減少。



実際の渋滞では、自由流相と渋滞相の相転移の際に、不安定な「準安定状態」が存在する。、それを説明するモデルとして西成氏がスロースタートという性質(とまった車は急に進めない)をCAのモデルに加味し説明に成功。モデルが面白いかどうかは別にして、準安定状態を発見したのが西成氏の偉いところでしょう。

2010年6月28日月曜日

Component Ratios of Independent and Herding Betters in a Racetrack Betting Market



競馬の2番目の論文がやっと完成。もっとも、プレプリントになっただけで、投稿した雑誌のレフェリーとのやりとり、リジェクトされた場合のさらなる修正、別の雑誌への再投稿と、これからどうなるのかは予想できません。1番目の論文結局1年半かかってしまったし。

この論文のポイントは、得票率と予想の精度の最終的な値への収束に「べき乗則」が見られるという発見がメイン。べき乗則で収束するということは、投票で多数の人々がコンセンサスに達するには非常に長い時間かかることを意味します。これを説明するモデルとして、競馬ファン(投票者)の中で「予想の精度の上昇」に貢献する、つまり市場に「情報」を持ち込む人々と、単に人気のある馬は強いからと投票し、自分では情報を提供しない人々の投票モデルを考える。すると、得票率と予想精度のべき乗則が説明できる。べき乗則の指数から前者の比率は4分の1。ちゃんと考えて投票しているのは4人に1人となり、また勝馬の平均得票率は2割(5人に1人)なので、ちゃんと考えて投票し、勝馬をあてられているのは20人に1人ということになります。100人中20人は競馬で勝っているけれど、ちゃんと考えて賭けているのはそのうち5人(競馬の神様)で、残り15人は他人のふんどしで勝っているだけ。

もっとも、モデルのパラメータをどう解釈するのかは難しいので、この数字を額面どおりにうけとることはできないのですが。自分では真剣に考えて投票しているつもりでも、大多数の人と同じ考えて投票する場合、「情報を持ち込まない人」と考えるのか、それとも、オリジナリティーはなくても、真剣に考えているので、「情報を持ち込んでいる」と考えるのか、とか。

一昨年の北村君の卒論で競馬の投票の時系列データの解析を始めてからなので、2年近くかかった割には、満足感がすくないです。結論はまあまあ面白いと思うのですが、予想精度のべき乗則の導出がなされていない、数値計算でそれらしい結果が出ただけという点。また、投票の後半、得票率の収束がべき乗則からズレ始めるのですが、その理由がよく分からない。予想精度のほうは、ほぼ最後までべき乗則に従うのに。

ただ、これをちゃんと解決するには、もっと高頻度の投票の時系列データの解析が必要になりそうです。

2010年6月10日木曜日

知性の限界



「理性の限界」が非常に面白かったので、その続編というこの本を読んでみました。結論から言えば、この本も分かりやすく書かれていて、楽しめる本ではあるのですが、「理性の限界」の第3部のゲーデルの不完全性定理から神様の存在証明までの、ワクワク感はなかったです。

昨日まで太陽が昇ったからといって、明日もまた昇る保証はない。同じように、帰納法がこれまでうまくいったからといって、これからもうまくいくとは限らないし、だから帰納法を帰納法では正当化できない。科学とは、反証可能な予言を行い、それで否定されるか、生き残るか、の繰り返しを通して、続けていくもの。その過程で、「真理」に近づいているかどうかは保証の限りではないけれど。

いろいろためになる本です。科学を学ぶ学生さんには是非読んでほしい。

2010年6月5日土曜日

Rで1次元セルオートマトン(続き)



Rで1次元セルオートマトンの続きです。来週からの1年生に演習用に、1次元セルオートマトンをRでシミュレートするプログラムを作成。ルール番号をRのコードに自分でインプットしないといけないですが、全自動だと教育的でないので。あとは、いろんなルール番号でフラクタル次元を求めてみるとか、車の渋滞をシミュレートするにはどういうルールだといいのか、とか、1年生レベルで実験できそうです。こちらの想定を超えたものを持ってくる学生がいれば楽しいですが、果たしてどうか?

右の図は、50サイトの1次元格子に確率30%で1を並べ、ルール184で右に1を移動した様子。ルール184は車の移動を模したもので、前に車がいると移動せず、車がいないなら移動するという最も単純なもの。いわゆるTASEP(完全=Totally 非対称=Asymmetric 単純=Simple 自己排除=Exclusion 過程=Process)と呼ばれるもの。確率50%以上で車を配置すると渋滞が始まることが知られているのですが。

今回作成したファイル:CA.R