2010年3月2日火曜日

歴史は「べき乗則」で動く



未来予測は可能なのか?この本の結論も「無理」。ただ、その理由は「べき乗則」「臨界状態」としているところが、モデル誤差にあるとするオレルと異なるところ。

この本で何度も出てくる例が砂山モデルです。板に上から砂粒をひとつづつ落とし、山をゆっくりと作っていく。あるところまでは、山が徐々に高くなっていくだけなのですが、十分山が高くなり、傾斜がきつくなると、砂粒をひと粒落とすだけで、大規模ななだれがおきたり、または何もおきなかったり、小規模ななだれがおきたり、という状態になる。このとき砂山のなだれの大きさ(転がる砂粒の数)と起きる回数を調べると、大きさが2倍で2.14分の1になるというべき乗則に従う。つまり、どんな大規模ななだれであっても起きる可能性はゼロではないわけで、こうした状態のことを臨界状態という。この砂山モデルでは、砂粒を落とすだけで勝手に臨界状態になるので、自己組織化臨界現象(SOC : Self Organized Critical Phenomena)と呼ばれる。

この自己組織化臨界現象の例として、2倍の大きさの地震は頻度は4分の1というグーテンベルグ・リヒター則、壁にたたきつけた凍ったジャガイモの破片の大きさだと2倍の大きさのものは6分の1の比率になる、山火事の場合大きさが2倍になると頻度は2.48分の1、戦争の戦死者の世界人口に対する比率は、比率が2倍になると2.62分の1となる、といった具合。

そして、多数の要素が密接に関連している系では、この臨界状態にあり、そういう系ではどういう規模の変化が起こるのかは全く分からないと結論する。もちろん地震の予測も出来ないし、人間社会もどうなるかは全く分からない。明日世界大戦が勃発することもありえると。

臨界現象、普遍性、べき乗則の説明が非常にうまいので、統計力学の臨界現象の勉強には非常にいい本です。タレブの「ブラックスワン」よりは物理屋には馴染みやすい。逆に、この本は物理に興味のある人しか買わないだろうとも言えるので、あまり売れはしないでしょう。多分。

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