2011年6月25日土曜日

WEHIA2011-3



WEHIAの3日目。今日のお目当ては、Luxの「Modelling 'Animal Spiris' and Network Effects in Macroeconomics and Financial Markets」。内容は、エージェントベースのモデル(ABM)の評価方法、パラメータの決定方法をしっかりやって予測しましょうというもので、非常に分かりやすいものでした。ちなみに、タイトルにある「Animal Spirits」というのは、Ratioal Expectationに対する言葉で、合理性のない直観的な動物的なものという意味らしく、講演は左の図から始まりました。

心理学的な効果、ダイナミックなつながりの入ったABMの研究は74年のFollmerの「Random Economics with Interacting Agents」から始まり、83年のWerdlich&Haagの「Quantitative Sociology」、2001年のBruck and Burlof「Discrete Choice with Social Interaction」と展開してきた。

では、ABMをデータをもとにどうやってそのパラメータを決めるのか。答えは最尤法なのですが、ABMの場合条件付き確率は計算できないので、シミュレーションで計算しないといけないところが面倒。

講演では、Werdlich modelを経済のデータでパラメータを決めることを行いました。マクロなセンチメントとして景気の心理指標(ZEWIndex)を用い、工業生産と比較する。1991年から2006年までの月次データ180個を使う。Weidlich モデルはN人のエージェントがいて、楽観的な状態と悲観的な状態の2種類の状態を考え、その遷移確率が定数と状態の比率の差の指数関数となる。定数がノンゼロの場合は二つの状態をランダムに変化するだけだが、定数項が零で差の効果が大きい場合、相転移を起こし、状態間で振動する状態となる。
このモデルを解くのは難しく、マスター方程式で確率分布の時間変化とし、さらに連続近似でフォッカープランクに持っていく。それを解いた条件付き確率分布でデータに対する対数尤度を計算し、尤度が最大になるようにパラメータを決定する。

モデルには、比率の差以外に、比率の時間変化(チャーティストに対応)などの項を追加し、よりデータとフィットするようにできる。で、データと合わせると、比率に比例する項をいれると対数尤度が一気に増加し、またチャーティストの項をいれると、その次に大きな尤度の増加がみられる。また、エージェントの数Nは結構小さいとするとフィットがよくなる。

投票実験でも同じようなモデルを考えているのですが、条件付き確率の関数形を決め打ちしているので、その点はパラメータ推定が楽。また、Werdlichタイプ(Kirmanの)のモデルでは振動しても、投票モデルの場合は震度せず、一方に偏ったらそれっきりで、その変化が相転移というのとは違うのですが、方法論は同じなので大変いい勉強になりました。(誰が考えても、解析方法は同じになるのでしょうが。)

あと、この講演の前のパラレルセッションで3つほど講演をきいたのですがよくわかりません、E.Lunguは「Patterns in the occupational mobility network of the higer education graduates」で、ルーマニアの大学生の就職先の変化を追って、いろんな業種間での学生の移動を業種のネットワークと考えて解析し、その中心が「社会科学または関連する業種」であらしい。あと、1989年は出生率が2.5だったのが2004年には1.2になったらしいです。あとの二人はMySpaceとFacebookのどちらを選択するのかのエージェントモデルやコミュニケーションネットワークの生成をモデル化するのに、個人に帰属し、他人と入れ替え不可能な属性と、一般的な比較可能な属性をちゃんと考慮することが必要だと言っていたと思うのですが、理解不能でした。聴衆がスピーカー以外3,4人だった、私の話したセッションよりさびしいものでした。

これで、WEHIA2011は終了、来年はパリ、再来年はアイスランドでやるらしいです。
観光に行こうと思いましたが、ランチを終えたら午後4時で、いまはもう6時前。これからどこかに行くか、それともアンコーナを散歩するか。悩むところです。

以上。

追記:町の中心にバスで出て、港まで歩いておしまい。トライアヌスの凱旋門をしっかり見ることはできませんでしたが、遠目で見る限りイマイチ。今度来るときはフェリーでギリシャにでも行きたいものです。

WEHIA2011-2



WEHIA2011の二日目。最初の講演はA.Kirmanによる「Economic Theory in Crisis」。アリがふたつの餌場が等距離にある環境でどちらを選ぶのか、という論文が有名。アリ(の集団)は二つの餌場で振動し、それが株や為替の市場において、投資家の態度がファンダメンタリストとチャーティストの間で振動するモデルの基礎となっている。もっとも講演をきいているときは、どこかで聞いた名前だというぐらいで、なかなか思い出せなかったのですが。

内容は、市場は自己実現するけれど、それは安定なのか?1900年にバシュリエが株式市場を正規分布でモデル化したとき、博士論文の審査を行ったポアンカレは、「ガウス性の過程はまずい(flawed)」と批判した。では、効率市場仮説はどこでおかしくなったのか。市場参加者は合理的に予想を行うけれど、その予想を他の投資家が知ると精度が悪くなる。個人の予想の精度は90%、集団は50%にすぎないけれど、人はどうしても空気を読んでしまい、自分の予想を捨てる。また、そのみんなの予想の確信度が上がる。(Tichet2010,Herdy and Menz 2010,Lorenz2011)これが原因である。左の写真は、この講演を詳しく解説した彼の著書で、表紙はシュンペーターとのこと。

次のパラレルセッションはD1の市場のエージェントモデルのところを聴講。
最初はT.Heの「Contrarian, momentum and Market Stability」で、市場参加者がファンダメンタリスト、チャーティストで、チャーティストのうち、トレンドにのる人と、逆張りの人を考えたモデルを確率確率微分方程式(stochastic delay integro-differential eqn.)として解析。積分が入りるのは、過去の株価のトレンドを考量する必要があるからで、固有方程式にもっていき、安定性を解析する。すっきりとした内容で、Kirmanの話の次に興味深いものでした。デジタル投票モデルを有限記憶の場合にどう解析するかで、離散的のまま母関数をつかって地道にやる方法とは別に、確率積分微分方程式で考えるのがいいのかもしれません。

あとの二人は、なにをしゃべったかメモを見ても不明。Tramontanaは、エージェントモデルが為替市場でのStylized factsを出すのに、非線形の項は必要なく、二人のファンダメンタリスト、二人のチャーティストの参加条件をもうければいい、というのをモデルをカオスのマップにして示したみたいですが、条件そのものが強い非線形なのをどう考えているのか?

午後はG.Dosiが「Heterogeneous banks and Technical Change in an Evolutinary Model of Endogenous Growth and Fluctuations」で、為替や株価市場のミクロなStylized Factsを再現するモデルをもとに、マクロの予測を行う話。それをつかって政策効果を論じましょうというもので、例えは利息を上げた時の失業率、GDPのボラ(倒産確率に関連)を予測すると、15%から20%をこえると一気にカーブが上昇するとか、グラフを見せていました。ほんとにこんなのであたるのでしょうか?日本の消費税も20%までなら上げられそうです。(私がマクロをよく知らないので根本的に誤解している可能性も大ですが。)

そのあとは、パラレルセッションE2に池田先生の「Agent Modeling of Business Cycle and Goods Market」を聞きに行く。家富先生らが、産業や商品の市場のシンクロの様子(位相など)を市場データから明らかにしたので、それを蔵本モデルでモデル化する話。蛍も最初は明滅がシンクロしていなくても、しばらく放置すればシンクロするというのをモデル化するのと同じ。話はわかりやすいのですが、最後に、「この相転移を検証したい」と。シンクロするかどうかは、振動子の間の結合定数により、ある値をこえるとシンクロするという意味で相転移である。それはいい。けれど、マーケットの場合は、シンクロしていない状態にしておいて、条件を変えてシンクロするようには持っていけないので、検証が難しい。そこが蛍やカエルとかと異なるところ。シンクロして鳴いているカエルを石を投げてびっくりさせてシンクロを壊し、しばらく待つとまたシンクロするのを見るようにはなかなかいかない。池田先生は、リーマンショックでもなんでも、外的なショックの大きさを評価し、それがモデルでのシンクロを壊すレベルかどうかを調べるという話に持っていきたいということでしたが。

同じセッションで、A.Russoが、労働者と投資家の階級の移り変わり(金持ちになった労働者が投資家になるとか)をモデル化する「Towards a Stochastic Model with Heterogeneous Agents and Class Division」とか、労働市場において、失業率と求職の充足率に単調減少な関係が1年程度の間壊れることをモデル化する「Interpreting the Beveridge curve. An agent-based approach」がありました。

このあと、ホテルで休憩し、午後8時半からSocial Dinner。港に面したレストランで45ユーロのコース。まあ普通。日本人5人で固まってしまったので、全然国際色はありませんでしたが。

第3日は、さぼろうと思っていたのですが、T.Luxの「Modelling Animal Spirits and Network Effects in Macroeconomics and Financial Markets」だけ聞いてこようと思います。Kirmanのアリのモデルをベースに市場をモデル化した最初の人でもあるので。為替や株価、百家争鳴の状態は終了し、KirmanとLuxのモデルがベースで展開しているのでしょう。

2011年6月24日金曜日

WEHIA2011


6月23日(木)から25日(土)までの3日間、WEHIA2011という経済学、経済物理学、エージェントのシミュレーションに関連した情報工学の学際ワークショップに参加。イタリアのアンコーナというアドリア海に面した港町で行われていて、一日目が終わりました。駅前のホテルに泊まっているため、ワークショップのやっているアンコーナ大の経済学部のある町の中心部まで3,4キロあり、バスに乗っていく必要があるのですが、これが結構大変。「カブール広場」という停留所で下りる必要があるのですが、バスは一切、次の停留所の情報を教えてくれない。仕方がないので、近くに座っていたおばあさんに、「ここカブール広間ですか」とそれらしいところで聞いたら、「まだまだ。ついたら教えてあげる」と多分いっていて、実際、教えてもらい、なんとか正しい停留所での下車に成功。こう書くとスムースに事が運んでいるように見えますが、バスを間違って、まったく違うところにいったり、ワークショップの開始時間の9時半についたのはその5分前くらい。

間に合ったと思い、最初の公演が行われているホールへいくと、すでにB.Greenwaldの「Long-lived Slumps in Economies with Heterogeneous Industry Sector」が始まっている模様。手書きのトラぺでの公演は、別にいいとは思うのですが、薄すぎて式とかが全然見えないし、そもそもちゃんと解説しているようには見えない。話は全然わからなかったのですが、「日本は20年ほどスランプだ」とトークのもっともいい具体例として何度も日本が登場。農業セクターから工業セクターへの人口移動が成長の原動力で、いまはサービス産業での技術革新がそれにあたる、とかいっている感じ。

休憩後、11時からパラレルセッションが開始。私はSan MiguelがチェアセッションA1を聴講。この日、一番おもしろかったのが、E.Kampffの「The Value of Costly Information in an Agent-Based Call Auction」。8ビットの商品で、その価値が1のビットの数に対し、何ビットかの情報をあるコストで教えてもらった上で1回限りのオークションを150人のエージェントの集団でおこなう。そして、取引戦略を遺伝的アルゴリズムで進化させる。すると、まず全情報を得るエージェントとまったく情報を得ないエージェントの2種類の集団だけになる。あとは、情報のコストで全情報を得るエージェントの集団が減少し、確か25人ぐらいで落ち着く。ちまり、まったく情報を持たないエージェントの比率は6分の5.

次のJ.Vinceは「Price rigidity and Strategic uncertainty An agent-based approach」。価格が環境が変わっても(コストなど)、なかなか変化しない硬直性をもつのは、自分が変化させたときに、それでシェアを失う確率、価格競争を引き起こす確率なので、不透明な部分があり、合理的な戦略なのだ、ということを主張している感じ。

3番目は、M.San Miguelの「Update rules and interevent time distributions: Implementing human activity patterns in a model for consensus formation」。取引が行われる間隔のばらつきが非常におおきく、べき則やファットテイルであることは知られているのですが、それをVoter Modelでのスピンフリップの時間間隔で理解しようという内容。格子やネットワーク上でモデルをシミュレーションして、それでおしまい。結論は、時間間隔分布は重要だから、それをちゃんとモデル化しないとダメ。

ここからランチ休憩。中庭の一角に、ビュッフェ形式のランチ(ハム、チーズ、フライ、パン、パスタ、サラダなど)が用意さていました。参加費が350ユーロなので、こういうのがついているのでしょうが、そんなにレベルは高くない。

午後も、いろいろ聞いて、J.Stiglitzが共著に入った公演も何件かありましたがいまいちよくわからない。「容赦のない価格づけが競合他社を排除する戦略としてどうか」とかいろいろありましたが。

私は午後の最後のパラレルセッションのC2で「Information Cascade in a Sequential Voting Experiment」の話。開始時点でスピーカー3名プラス聞いている人3名(最後は7,8名)で、さびしい限り。受けたのかどうかは分かりませんが、すこし情報量が多すぎた気もします。質問で、「モデルのλは何を意味しているのか」とか、「このデータは本当に実験したものなのか、それともシミュレーションなのか」とあったので、全然分かっていないのでしょう。

このあとアペリティフを飲みながら歓談の時間(Aperoというらしい)があり、新潟大の家富先生、明治大の水野先生、東大の池田先生(正確には、入ったレストランで発見)、京大の佐藤先生のところのM1家治川さんらと夕食へ。海の幸の焼いたのと揚げたのの盛り合わせとビール、パスタを食べましたが、それほど感動はなかった。

以上で1日目はおしまい。3日目は午前中でおしまいなので、観光できそうです。マルケ州に何があるのか調べる必要あり。H氏なら、すこし北のアドリア海のビーチなのでしょうが、私は外部記憶に名所のデータを蓄積します。