11月17,18の二日間、新潟大学の家富先生に経済物理学入門の講義を聴講。同僚の猿渡先生が、理物(東大理学部物理学科)の同期だということで、お願いして実現したもの。4年生の理学特別講義なのですが、統計物理が必修でないことなどを事前に猿渡先生が連絡していたようで、難しい数式もほとんどなく、娘さんの写真も含め、登場人物の写真が多数使われた目に優しい内容でした。確率の把握の難しさとしてMonty Hall問題から始まり、ブラウン運動、対数正規分布と株価変化、岩石破壊での破片や富の分布、地震エネルギー分布のべき乗則。そして、最後はネットワークの話で、ネットワーク科学の基礎的な解説、可視化、そして最後に企業間の取引ネットワーク構造の研究の話。興味深く、多岐にわたる内容で、学生さんにもよかったと思います。(家富先生、ありがとうございました。)
で、ここからが本題。課題として、地震の頻度分布のデータから、エネルギー分布がべき乗則に従うというGutenberg-Richter則が成り立っていることを示せというものが出されました。図が、x軸をマグニチュードM、y軸に地震の頻度(赤印)をプロットしたもの。べき則則でフィットする場合、ある大きさ以上の頻度という累積を使うほうがよいので、それも描(緑印)いています。グラフを見ても、累積にしないと地震規模の大きな端の部分は頻度が小さく、頻度分布のグラフはばらつく。一方、累積のほうは、ある規模以上の地震の数なので、そのばらつきが抑えられる。で、10のb乗に比例するとして、フィットした結果が直線で描かれています。このフィットで問題になるのが、どこをフィットするのかということ。図ではMが5以上、6以上、7以上でフィットしています。すると、6以上と7以上だとbの値がほぼ1で大体等しくなっているので、bは1と結論するわけです。
経済物理などの本に限らず、物理で社会現象を説明する本によくあるのがこの手のべき乗則の話。べき乗則に従うから、一見複雑に見える現象でもその本質は単純な物理法則で説明できるとか書いてある。じゃ、本当にべき乗則なのですか、と真剣に調べたのがニューマン:SIAM Review 51, 661-703 (2009)。例えば、上であげた富、地震の規模のほかに戦争の規模、インターネットの接続数、言葉の出現頻度など、ありとあらゆるデータに対し、べき乗則だとしたときのp値や、指数分布や対数正規分布などとどっちがよくデータに合うのかという比較を行ったものです。
すると、ほとんどのデータは「べき乗則とはいえない」という結論になる。上記の論文のp27にp値の表があって、それを見ると「地震は0」「富も0」。こんなプアなフィット(図の直線のフィット結果)が実現することはないから、べき乗則ではない。唯一、言葉の出現頻度はべき乗則で、地震や富はカットオフのあるべき乗則(つまり、あまり大きなところはべき乗則ではない)が妥当。他の多くのデータも、べき乗則に従っているといってもしいし、他の分布に従っているといってもいい微妙なものである、と。
In particular, the distributions for the HTTP connections, earthquakes, web links, fires, wealth, web hits, and the metabolic network cannot plausibly be considered to follow a power law; the probability of getting by chance a fit as poor as the one observed is very small in each of these cases and one would have to be unreasonably optimistic to see power-law behavior in any of these data sets.(p.23)
There is only one case -- the distribution of the frequencies of occurrence of words in English text -- in which the power law appears to be truly convincing, in the sense that it is an excellent fit to the data and none of the alternatives carries any weight.(p.26)
べき乗則に従うと厳密に主張できる系はほとんどない。一方、べき乗則に従うモデルはいくらでも作れる。こういう状況でべき乗則をもとに説得力のある議論ができるとは思えない、とH氏ならいいそうです。
2011年11月20日日曜日
クラスター代数?
11月19日(土)に行われた第14回数理物理・物性基礎論セミナーは「クラスター代数」というものの入門的な講義とその差分方程式への応用でした。講師は千葉大数学の井上玲氏。クラスター代数なるものを耳にするのも初めてでしたが、アブストラクトに面白そうなこと(曲面の分割に使える)が書いてあったので聴講してきました。場所はお茶大理学部。
午後3時からスタートし、最初の1時間半はクラスター代数の定義と、基本的な性質。そして差分方程式との関係。後半は数論で現れるSomos4と呼ばれる差分方程式からTシステム、Yシステムへのクラスター代数の応用。講義の最初に、クラスター代数は定義が大変という説明があり、身構えたのですが、井上氏の解説は分かりやすい。まず、辺に正の整数の重みのある矢印のついたグラフを考える。これを quiverと呼ぶ。(図の矢印の個数で重みを表す。)そして、グラフの頂点にクラスター変数をのせる。このquiver Qとクラスター変数Xi のペア(Q,Xi)に対し突然変異mutationさせて次々とクラスター変数を代数的な関係式で変形を行う。そうして得られるクラスター変数の変形されたもの全体で出来上がった代数をクラスター代数と呼ぶ。突然変異は、頂点を一個選び、そこに入る辺の矢印を逆にしたり、入る辺、出る辺の端を結ぶ新たな辺を追加といったようなもの。こうした定義を行うと無限個の生成元をもつどうしようもない代数の出来上がりになる気がしますが、突然変異の関係式をうまく選び、クラスター代数はきれいになるようにうまくできている。例えば、クラスター代数の元はローラン多項式になる(分母がきれい)とか、有限生成になるのは、quiverがディンキン図の場合(mutation同値)であるとか。
このクラスター代数を使うと、整数論で知られる問題の別証を与えられる。例えば、図に示したSomos4と呼ばれる差分方程式を考えた場合、x0からx3まで1でx4以降を計算すると、それらは有理数ではなくすべて整数であることが知られている。その証明は1980年代に与えられていたらしいのですが、クラスター代数では4頂点のquiverを考え、1,2,3,4と順番に突然変異させていくと、クラスター変数の差分方程式が得られる。それがSomos4に一致し、クラスター代数の性質から整数になることが分かる。
このクラスター代数を使い、B.KellerがYシステムという差分方程式の解の周期性を証明。それをベースに、Tシステムの周期性を証明したのが井上さんたち(IIKNS2008)。それには、クラスター代数の上の圏、クラスターカテゴリーも使う必要があるとか。恐ろしい。私には何が偉いのかよく分かりませんでしたが、クラスター代数自体は結構面白いと思いました。現在の自分の研究にはまったく関係ありませんが、いい気分転換になりました。井上さんの講義も力が抜けていて、私も見習いたいものです。
2011年11月5日土曜日
エコポッド
自宅でコーヒーを飲むときは、豆から自動で淹れてくれるパナソニックのNCーA55Pを1年以上前からつかっていて、カフェで飲むのと大差ないコーヒーを楽しむことができて重宝しています。デザインはあまり好みではないので、冷蔵庫の上の奥のあまり目につかない場所におかれた日陰の存在なのですが、毎日使っていて、豆の粉が微妙に飛び散る以外は不満はありません。パンチのきいたのを飲みたければ水を減らせばよい、といった調整も簡単。
研究室では、インスタントとか、ドリップとかいろいろ試したのですが、なかなか落ち着かない。インスタントは、豆からのコーヒーとは別物で、それはそれでいいのですが、毎回だと味気ない。ドリップは、一日2回ぐらいの頻度だと、豆をひいてからのタイムラグが長くなり、どうも劣化がきになる。で、たまたま秋田氏のWEBページに紹介されていた、UCCのエコポッドというのを試しに買ってみました。秋田氏のデザインに興味があったという理由もありますが、研究室でもコーヒーを楽しみたいのがメインです。
エコポッドは、1回分のコーヒー(など)をポッドにつめたものを、専用のマシンで淹れるシステムで、普通のコーヒーなら10回分で400円、高いもので600円でネスプレッソの半額程度。値段はいいと思います。とりあえず、写真のマシンと10回分のコーヒーのついた5000円弱のセットに、キリマンジャロやブルーマウンテンブレンドを追加して買ってみました。
1週間ほど試した結論は、インスタントよりマシ、でも薄くてパンチがなくブルックスと同じかちょい上ぐらいのレベル。淹れる量は、マニュアルで調整する機能もあるのですが、180CCのところを適当に減らしてもあまり変わらない。マックのコーヒーのようにアメリカンでいいのならいいのでしょうが、私には物足りない。ただ、淹れた瞬間は、まあまあ香りもあり楽しめるので、せっかく買ったことだししばらく使ってみます。コーヒー以外にも、緑茶、ウーロン茶、紅茶のポッドもあるみたいだし。
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