2011年11月20日日曜日

クラスター代数?


11月19日(土)に行われた第14回数理物理・物性基礎論セミナーは「クラスター代数」というものの入門的な講義とその差分方程式への応用でした。講師は千葉大数学の井上玲氏。クラスター代数なるものを耳にするのも初めてでしたが、アブストラクトに面白そうなこと(曲面の分割に使える)が書いてあったので聴講してきました。場所はお茶大理学部。

午後3時からスタートし、最初の1時間半はクラスター代数の定義と、基本的な性質。そして差分方程式との関係。後半は数論で現れるSomos4と呼ばれる差分方程式からTシステム、Yシステムへのクラスター代数の応用。講義の最初に、クラスター代数は定義が大変という説明があり、身構えたのですが、井上氏の解説は分かりやすい。まず、辺に正の整数の重みのある矢印のついたグラフを考える。これを quiverと呼ぶ。(図の矢印の個数で重みを表す。)そして、グラフの頂点にクラスター変数をのせる。このquiver Qとクラスター変数Xi のペア(Q,Xi)に対し突然変異mutationさせて次々とクラスター変数を代数的な関係式で変形を行う。そうして得られるクラスター変数の変形されたもの全体で出来上がった代数をクラスター代数と呼ぶ。突然変異は、頂点を一個選び、そこに入る辺の矢印を逆にしたり、入る辺、出る辺の端を結ぶ新たな辺を追加といったようなもの。こうした定義を行うと無限個の生成元をもつどうしようもない代数の出来上がりになる気がしますが、突然変異の関係式をうまく選び、クラスター代数はきれいになるようにうまくできている。例えば、クラスター代数の元はローラン多項式になる(分母がきれい)とか、有限生成になるのは、quiverがディンキン図の場合(mutation同値)であるとか。

このクラスター代数を使うと、整数論で知られる問題の別証を与えられる。例えば、図に示したSomos4と呼ばれる差分方程式を考えた場合、x0からx3まで1でx4以降を計算すると、それらは有理数ではなくすべて整数であることが知られている。その証明は1980年代に与えられていたらしいのですが、クラスター代数では4頂点のquiverを考え、1,2,3,4と順番に突然変異させていくと、クラスター変数の差分方程式が得られる。それがSomos4に一致し、クラスター代数の性質から整数になることが分かる。

このクラスター代数を使い、B.KellerがYシステムという差分方程式の解の周期性を証明。それをベースに、Tシステムの周期性を証明したのが井上さんたち(IIKNS2008)。それには、クラスター代数の上の圏、クラスターカテゴリーも使う必要があるとか。恐ろしい。私には何が偉いのかよく分かりませんでしたが、クラスター代数自体は結構面白いと思いました。現在の自分の研究にはまったく関係ありませんが、いい気分転換になりました。井上さんの講義も力が抜けていて、私も見習いたいものです。

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