2009年8月27日木曜日

やさしい電子物性



講義の準備のために読んでみました。工学部の学生さんにむけて書かれているようで、フェルミ分布の説明、計算など、統計力学的な側面の説明がほとんどない。理学部物理学科の学生が読むのには、ちょっと物足りない、という印象です。

工学部ではどう教えるのかについては勉強になりましたが。

2009年8月25日火曜日

レッドクリフII



「レッドクリフII」をDVDで見ました。

トニーレオンが周愉っぽくないと以前書いたのですが、楽しめる作品。とにかくスケールがすごい。「グラディエーター」の最初の、ゲルマンとマルクス・アウレリウス帝率いる(実際には、マクシマスの騎馬軍団の活躍を見に来た感じですが)ローマ正規軍の激突以上の迫力。CGの技術の進化もありますが、ベースになる物量が大きければ、CGでさらにその迫力が増す。それがうまくいって圧倒的なスケール感を持った映画になっています。

劉備軍、孫権軍に疫病がはやり、劉備が「このままだと全滅だ。私はこれ以上負けるのが嫌だから撤退する」といって、本当に撤退したときは、私もだまされました。それはないでしょう、と。しかし、それも孔明と周愉の作戦。曹操は、劉備と孫権の離反を知って、孫権のみに注意を向けるのですが、劉備軍は孫権の火計と同時に、曹操の本陣のある鳥林を急襲します。

最後は、オールキャストが揃い、曹操にバイバイして終わるところは、ちょっとありえない気もしましたし、北方三国志を読んですぐなので、違うんじゃない(どちらが本当かは私には分かりませんが、たぶんどっちも違うのでしょう)と思ったりした部分もあるのですが、上記のようにスケールの大きさで圧倒されるいい作品だと思いす。

2009年8月24日月曜日

新しい物性物理



今年から固体物理学の講義を担当することになったので、参考資料にと読んでみました。著者は伊達宗行氏。物性物理、特に磁性研究の権威です。固体物理、物性物理の勉強は、大学4年のときに講義を受けて以来なので、もう20年近く昔ということになります。当時もあまり興味がない分野ということもあり、そんなに勉強した覚えはないのですが。

内容は、「物性物理」という名称が日本独自のもので、固体でもなく、凝縮体でもなく、物の性質を広く研究対象とすることが分かる素晴らしい名前なのだという点から始まり、原子、結晶構造、エネルギー準位、バンド構造、超伝導とスタンダードに話が展開していきます。後半では、スピントロニクス、ナノテク、カーボン科学、そしてT,P,Hが無茶苦茶小さいとかデカイ、極限科学の世界の紹介、と盛りだくさん。後半、すこし説明が端折ってあって、読むのがつらい部分もあるのですが、物性物理の最前線がどういうものかの感じをつかむのにはいい本です。

誘電率をコントロールして光にバンド構造を持たせるとか、強磁場下でバンド構造がフラクタルになるとか、半導体を素材に人工の原子を作るとか。物性物理って楽しいですね。しかし、私が固体物理の講義をやっても大丈夫なのか、まだまだ不安なので、もっと勉強の必要がありそうです。

2009年8月21日金曜日

北方三国志13



「死せる孔明、生ける仲達を走らす」が有名ですが、北方三国志には、この言葉さへ現れません。司馬懿は、ひたすら孔明との決戦をさけ、堅陣を組んでそこからは一歩も出ようとしない。孔明も、長安攻略を考えるが、挟撃のリスクから動けない。最後は擁州の西部に軍を散開し、西部制圧後に長安を奪取という局面の打開を謀るが寿命がつきてしまう。劇的な場面もほとんどなく、淡々と孔明の最後を描いています。

長安は、そこにある。洛陽も、遠くない。いまの軍だけでも、侵攻は可能だ。しかし、擁州西部が加わる。涼州もなびいてくる。大軍になるのだ。
中原まで制すると、次はどこになのか。河北か、それとも呉か。
「天下統一は、遠い夢でありましたな、殿。」
孔明は劉備に話しかけていた。・・・・。
「しかし、殿。我々が目指した天下とは、なんだったのですか?」

なんでもかんでも背負い込んでしまい、燃え尽きた孔明の負けなのか。

北方三国志では、漢の血を守り抜くことが、万民にとって平和な社会をもたらすことにつながる、という思想が底流にあります。劉備も孔明も、そして登場人物の多くがその考えに同意している。だから、漢の旗を揚げれば、多くの人が集まってくる。一方、曹操は、漢の血は腐ったのだから、覇者が帝になるのが正しいと考える。その考えが、荀彧(劉備に近い)との軋轢を生んだりもしますが、曹操の考え方のほうが中国では普通の気がします。実際、秦から漢に変わるときも、そうでしたし。、また、漢以降の中国の歴史は「易姓革命」と呼ばれるように、毎回、新しい血(姓)が皇帝になってきたのだから。一方、日本は万世一系の天皇制。天皇家は続き、為政者のみが次々と変わっていく。藤原氏、平氏、源氏、足利氏、などなど。

多分、北方さんは天皇制が好きなのでしょう。

それはともかく、三国志が堪能できた全13巻でした。

2009年8月19日水曜日

北方三国志12



「泣いて馬謖を斬る」。3度目の正直で、孔明が魏に侵攻。その作戦は、さすが孔明とうなるほどのもの。魏軍を蜀軍の本体にひきつけておいて、超雲、魏延の遊撃部隊に長安と魏の新皇帝曹叡を急襲を命令。魏への侵攻に際し、孔明は蜀の新皇帝劉禅に諸将の前で「出師の表」を捧げる。しかし、馬謖の軍令違反により、蜀軍は撤退をよぎなくされる。

北方三国志では、魏に侵攻するときに孔明が考案したとされる様々な新兵器の記述も、さらに出師の表でさえ記述しません。単に、「劉備が死んだ時から説き起こし、いまの蜀の状態を憂い、臣の道を唱え、帝たる劉禅の心得を語っている。」でおしまい。「これが孔明なのだ。・・・。一片の嘘もなく、微塵の甘さもない。そのくせ、誠実さと慈愛には溢れている。ほかの誰がこんな言葉を語ることができるのか」と馬謖に語らせるだけ。

馬謖と語り合う孔明。
「私の死が、いくらかでも丞相のお役に立つのでしょうか?」
「蜀という国に、役立つ」
「ならば望外の喜びです」
不意に孔明の眼から涙がこぼれ落ちるのを感じた。それはとめどなかった。
「丞相が、私のために泣いてくださいますか」
「さらばだ、馬謖。父と子のようにして過ごした歳月を」

そして、超雲も死に、五虎将軍は誰もいなくなってしまった。最後の13巻での孔明の死に様、司馬中達との死闘が楽しみです。(しかし、漢字の変換が大変だ。)

2009年8月17日月曜日

北方三国志11



孫権に関羽、超飛を謀殺、暗殺され、孫権の首を獲るべく呉の荊州に侵攻した劉備。それに合わせ、魏に擁州から侵攻し、一気に魏と並ぶ国力の獲得を狙う孔明。しかし、呉の指揮官陸遜は劉備軍を700里の隘路に導き、撤退に撤退を重ねて最後に袋のねずみにする作戦で壊滅させる。劉備は何とか蜀の白帝城(永安)に帰還するも、最後は病に倒れ帰らぬ人となる。劉備、曹操の時代は終わりを告げ、孔明、孫権、曹ヒによる三国分裂に時代に突入する。

敗戦後、孔明はひたすら蜀の国力回復に努め、報告できる状態になるまではと劉備とは会おうとしない。一方、劉備は敗戦のショックと病気から、自分の後のことを伝える気力もない。しかし、最後の気力を振り絞り、成都の孔明に使者をおくる。

「成都に、使者を出せ。孔明を呼ぶのだ」
永安から出頭命令が届いた。それはまさしく劉備の命令であり、書面を開いた時、孔明は手のふるえを止められなかった。
・・・・・・・・
寝台に横たわっている劉備と、眼が合った。不意に涙がこみ上げてくるのを、孔明は止めることができなかった。
「やっと、お目にかかれました、陛下」


昔読んだ三国志の記憶では、これからジリ貧というか、孔明の頑張るだけの話になっていくのですが、北方三国志は読ませてくれそうで、楽しみです。残るは、12,13巻の二つのみ。

2009年8月6日木曜日

「渋滞」の先頭は何をしているのか?



友人から、「こういう本なら売れる」と言われて渡されたので、読んでみました。西成氏の本は、新潮の「渋滞学」以来の2冊目です。内容的には「渋滞学」の内容をさらに発展させ、かつ説明も洗練されています。「渋滞学」では、自然渋滞がメタ安定な状態(水でいうと、凍ってもおかしくない過冷却の状態)が壊れることによる自由流の相から渋滞相への相転移だという点をモデルで詳しく解説していたのですが、この本では、本質だけを説明してモデルの詳細な部分は省略。そして、他の渋滞のメカニズムである「ボトルネック渋滞」、「ダンゴ渋滞」を解説しています。

また、渋滞の解消方法として、車間距離をあける、ブレーキを踏む回数をへらす、や、それを教育で広めること。また、雑学的に、「渋滞のし始めは左車線があいている」「高速道が渋滞していたら一般道も80%以上渋滞している」など、読者の興味をひく内容をうまく散りばめています。最後は、笑い、生物、経済、社会、病気、災害、インターネットを渋滞の観点から眺めるとか、盛りだくさん。防衛大学の学生が複数で歩くときは隊列を組む、とか、小学校の運動会の場所取りで一番込むが開場直前だが、その次は30分前だとか。

個人的には、こうした雑学の部分が面白かったのですが、それ以外では、カーナビでの誘導が「ハンチング現象」と呼ばれる不規則でカオス的な振動を引き起こすという点でした。論文を書いているみたいなので、ちょっと調べてみたいと思っています。

2009年8月1日土曜日

Chateau Le Puy 2003


テレビドラマの「神の雫」で「神の雫」に選ばれたのは「Chateau Le Puy 2003」というワインでした。

「神の雫、それは永遠なるもの。地上で何が起きてもゆらぐことはない。そこは、果てしなき遠い扉の向こうにある。あらゆる使徒を従わせ、私は今その扉を開く。神に続くその道は、さまざまな時を越えてただひたすらに遠くそして深く大地へ続く。私はその道を歩むことに興奮を抑えきれないでいる。人間も自然もただそこに営々と続く。このワインはまさに神が作り出したひと雫である。」

テーマは、「永遠なるもの、それは受け継ぐこと」。そしてワインは「Chateau Le Puy 2003」という筋金入りのビオワインでした。「永遠なるテロワール、400年もの長きの間、一滴の農薬も使わず、葡萄の木々は地中70mの深くまで根をはり、猛暑で各地の葡萄の木が枯れた2003年でも見事なエレガントなワインを生み出した。」

このワインをネットで売っていたので買ってみました。ただし、フルボトルではなく500cc入りの瓶で、たしか4200円。ワインの感想は、普通においしいワイン。ボルドーらしい、でもアクも強くなく、するすると飲みやすい。4200円出すなら、もっとおいしいワインはいくらでもあるでしょう。でも、「神の雫」なので、スプレッドも納得できる範囲です。

マンガのほうの「神の雫」は何なのか?楽しみです。

追記:一緒に飲んだ友人いわく「まずい、うまいでなく、正しいワイン」。

追記2:chateau le puy の紹介ビデオ

本「北方三国志7」


いよいよ「レッドクリフの世界」、赤壁の戦いです。

荊州の江陵をベースに三十万の曹操軍が長江を下る。一方、揚州水軍を率いる周諭は、十三万の兵力の十万をずっと下流域に分散させ、残り三万で陸口に布陣。この作戦は、長江全体を水上戦に不慣れな曹操軍の罠とする、というもので、曹操がそれに気づくことも計算している。周諭の三万と劉備の三万で曹操は鳥林に布陣するしか選択肢がなくなる。三万という兵力も、多すぎれば曹操が陸戦に切り替えることを計算してのもの。あとは、風向きが北から南に変わる一瞬の隙をついて火攻めで曹操軍を破る。曹操軍が燃える火で石頭関の崖が真っ赤になったので、以後「赤壁」と呼ぶ。


昔読んだ本では、孔明が七星壇に登って祈祷し南風を吹かせたとか、眉唾な感じがあったのですが、北方三国志はその点説得力があります。曹操は油断していたのでしょうね。

赤壁の後、関羽が自分も劉備も五十を超えるのに、周諭は三十五、孔明も三十と若く、すこしあせります。
「天下に届かなければ、なんのための志だったのですか?」
「急げば届くのか、関羽?」といって嗜める劉備。
その後、赤兎馬の子供を貰い、関羽の気持ちもすこし治まったのか?なぜか印象に残る場面でした。