2010年12月8日水曜日

謝金のお支払い

10月に実施しました投票実験の謝金をお支払いしています。60人の参加者のうち、42名のかたにはすでにお支払いしました。まだ受け取っていないかたも、とりにきてください。領収書に日付をサインするだけですので、印鑑はいりません。ただし、日付のサインで失敗すると、訂正のために印鑑が必要になります。

謝金は3000円プラス消費税150円。正答率トップ10のかたには別に報奨金をお渡しします。ちなみに、トップの正答率は74.7%で物理学科の4年生でした。

風邪のため久しくブログを更新できませんでした。今年の風邪はひつこい。治ったと思って油断すると、ぶり返すの連続。とうとう一月以上風邪をひきつづけています。卒論の学生さんたちも風邪になる人が何人かでてきて(それ以前に家に引きこもったままの人もいますが。実験の打ち上げにはきたのに、どういうこと?)、私のがうつったのかもしれません。みなさまお大事に。

12月13日現在、5名の方が謝金を受け取っていません。日付のサインだけなので、なるべく早くきて受け取ってください。ただ、私の体調が悪くて研究室にいないことが多いので、なかなか受け取ることができないというのもあるでしょうが。よろしくお願いします。

12月22日、すべての方に謝金をお支払いすることができました。実験へのご協力ありがとうございました。データは興味深く、みなさんのご協力に感謝します。

2010年10月28日木曜日

オレルの博士論文2


前回の「オレルの博士論文」の続き。今回は彼の主要な結果を数式で簡潔に解説。彼の博士論文は、ターゲットとする系の時間変化とモデルの時間変化の違い(誤差)のうち、どの部分がモデル誤差で、どの部分か初期値誤差なのかを明らかにすること。また、系の時間変化を追跡できる時間はいくらなにかを明らかにすることにあります。問題は、初期値誤差とモデル誤差は、しばらくすると混ぜ合わさってしまうこと。t=0の初期状態に誤差がなくても、モデル誤差があると、すぐにモデルと系の時間変化は異なる軌道を描き、誤差が生まれる。すると、その時点以降はモデル誤差がなくても、誤差が系のカオス性により指数関数的に大きくなる。つまり、モデル誤差が初期値誤差になり、それが急速に大きくなって、誤差の大きな部分を占めるようになり、どこまでがモデル誤差で、どこまでは初期値誤差なのか、区別が難しくなる。

この困難に対するオレルの処方箋は単純です。系の軌道上でモデルがどのような時間変化を生むのかと、系の時間変化の差がモデル誤差(ドリフト)である。左上の図のx(t)がモデルの時間変化を記述し、そのダイナミックスはX(x)で与えられるとする。また、系の「真」の軌道をy(t)で記述し、ダイナミックスはY(y)とする。y(t)の観測には一般に誤差があり、またYを人間が完全に知ることはない。すると、xとyの差が誤差eを定義しますが、モデルの軌道が系の軌道の十分近くにある場合、4つ目の近似式で評価できる。最初の項は、初期値誤差e(0)の増幅の様子を線形演算子Mで計算し、2番目の項は、モデル誤差を表す項で「ドリフト」と呼ぶ。このドリフト項は、観測された系の軌道上yでモデルの力X(y)を積分したものでり、系の「真」の軌道上で積分しているので初期値誤差の一切入らない正味のモデル誤差となっている。このドリフトの大きさをd(t)と書くことにする。

では、d(t)とe(t)の大きさはどれぐらいなのか?それを示したのが次の図です。このグラフは、ヨーロッパの実際の天気と天気予報の誤差e(t)と上の式で計算したドリフトd(t)を描いたものです。最初の72時間までは、誤差e(t)のほとんどはドリフト(モデル誤差)d(t)であることが分かります。また、誤差やドリフトが予報時間tの平方根に比例して増加している様子も分かります。一方、図の下部にはドリフトによる初期値誤差がどう大きくなるのかを示しています。6時間ごとのドリフトを初期値誤差として線形演算子Mで時間変化させたのが点線。そして、各々の点線をドリフトに加算する。多次元空間なので、直交すると仮定。すると、72時間以降の誤差とドリフトの差も説明できる。


ドリフトd(t)の計算式として、短時間でのドリフトの大きさdmとドリフトベクトル間の角度のデータcmを用いて左上の図の最後の式を導いている。これは、ドリフトがブラウン運動していることを意味しています。相関がまったくないわけではないですが、誤差はブラウン運動し、その結果d(t)はtの平方根に比例して大きくなるというわけです。

オレルのもうひとつの結果は、モデルが系をどれぐらいの時間追跡できるのかに関するものです。系の軌道のまわり半径rのチューブの中にモデルの軌道が存在する時間は、d(t)=2rで近似的に与えられるというもので、直感的にも分かりやすい。このrとして天気の観測誤差を用いると、気象台が使っているモデル(TL319)が天気を追跡できる時間は約4時間と推定できる。

私が一番興味を持ったのは、モデル誤差がブラウン運動するという部分です。もちろん、ブラウン運動した誤差が、のちのち指数関数的に増幅されるのですが、それでも最初の3日間はブラウン運動しているように見える。モデルをもっとよくすればドリフトが減少して初期値誤差が減るので、ブラウン運動する時間も長くなる。実際、TL159という系をTL42、TL63(番号はモデルの微細さに関係)でモデル化したとき、微細なほうが誤差も小さくがtの平方根で振舞う時間も長い。ということはブラウン運動する時間の長さがモデルの評価にも使える。

このドリフトがブラウン運動するというのが非線形力学系の一般的な性質なのか、それとも天気予報のモデルに限られたことなのかも興味深いです。私は今まで、天気のようなカオス系を別の単純なカオス系でモデル化しても、その誤差は指数関数的に大きくなり、未来を予言できるはずはないと思っていたのですが。どうもそんなナイーブな話ではなく、結構奥の深い問題だということが分かり、非常に楽しめた論文でした。モデルを微細にすればするほど、誤差がブラウン運動する時間がいくらでも長くなるのか。数値計算ですこし調べたくなりました。

2番目、3番目の図はModelling error in weather forecasting, D.Orrel et al(2001) より。

2010年10月26日火曜日

オレルの博士論文


以前、週間天気予報の予想精度が予報時間(予報発表時点から予報の対象とする時点までの時間:forecast time)とともに落ちると説明しました。つまり、明日雨が降るかどうかの予報より明後日雨が降るかどうかの予報のほうが信用できないという、経験上も、またより未来のことなのだからその難しさもイメージしやすいことを述べただけです。

では、なぜ未来のほうが予報の精度は落ちるのでしょうか?月や太陽が空のどこにあるのかは、何十年後まででも精確に予言できる。月食や日蝕がいつ起こるのか完璧な予言が可能。では、未来の天気の予言はなぜ難しいのか?物理では、その原因はカオスであると教えているし、また、気象学者もそう考えている。つまり、天気の時間変化はその非線形性から初期状態の違いに敏感(初期値鋭敏性=「カオスの定義」)で、一方、ある時点での天気の状態を完全に知ることは不可能(観測網は50キロ間隔とかで、その間の地点での情報はない、など)なので、そのことが天気の状態の誤差となって、未来の天気の状態を計算しても誤差が大きくなってしまう。結果、外れることが多くなる。未来になればなるほど、予報時間が長くなればなるほど、誤差は指数関数的に増加するので、外れる率も増加し、明日よりも明後日、明後日よりもし次明後日のほうが天気予報は外れやすくなる。

つまり、大気の状態の時間変化がもつカオス性が天気予報が外れる原因である、と考えられているわけです。大気の対流の簡単なモデル(たった3個の変数しかないモデル)を研究し、それがカオス性をもつことを発見したローレンツ(1963)以降、そう信じてきたわけです。ローレンツはその3変数のモデルの時間変化のパターンに蝶の形をした、いわゆるローレンツアトラクタを発見し、この「蝶」が天気予報の難しさの象徴となったわけです。天気は蝶がひらひらと飛ぶような気まぐれな時間変化を行う。そして、気象学者はその気まぐれな蝶を網をもって追いかける。蝶はきまぐれに飛ぶ(カオス)のだから、天気予報が外れるのは仕方がない、というエクスキューズも気象学者に与えてくれた蝶。

でも、気象学者が使っている網は、蝶をちゃんと追いかけることは出来るのでしょうか?ある時点での蝶の位置の誤差(初期値の誤差)がその後の蝶の位置の計算結果に大きな誤差を生むというのは正しいのでしょう。けれど、そもそも網が蝶を追うことができないなら、初期値の誤差がどうのこうのという以前の問題ということになります。

気象学者は、網はちゃんと蝶を追えているという信念のもと、初期値誤差に対応して網の大きさを大きくすればいいと考え、「アンサンブル予報」を開発しました(1993)。これは、異なる初期状態を多数用意し、その時間変化を計算して出来た多数の未来の状態の様子から、確率の言葉で予言するというものです。1匹の蝶では初期位置の誤差に対応できないので、初期値の誤差に対応した大きな網を用意し、その中に多数の蝶をいれて(気象学者の網の運動のモデルで)飛ばす。多数の蝶のうち80%が雨、20%が晴れに到達したなら80%で雨が降ると予言するわけです。けれど、網の大きさをおおきくし、蝶の初期値誤差に対応したつもりでも、網が蝶を追えないなら意味がありません。蝶が本来飛んだであろう位置と網の位置がまったくずれてしまうので。

気象学者の信念は正しいのでしょうか?彼らの網はちゃんと蝶を追えるのか?この問題を扱ったものとして、以前、オレルの本「明日をどこまで計算できるのか」の紹介をしましたが、彼の主張を理解するために、2001年オックスフォードでの博士論文「Modelling Nonlienar Dynamical Systems: Chaos, Uncertainty and Error」を読んでみました。

彼の博士論文の動機は、天気予報が外れる原因はカオスといわれるけれど、それは本当なのだろうか、天気予報に使うモデルのもつ誤差(モデル誤差)は無視していいのだろうか、という点です。ここでモデルといっているのは、未来の天気の状態を計算するのに使う微分方程式のことであり、気象学者がもっている網の運動を記述するものです。彼は、モデル誤差を計算する方法を開発し、初期値の誤差による誤差(初期値誤差)、天気予報の誤差と比較しました。結論は、モデル誤差のほうが初期値誤差よりも大きく、3日後までは天気予報の誤差のほぼすべてはモデル誤差である。また、天気予報に使っているモデルは天気の状態を数時間しか追跡できない(=モデル誤差が観測誤差程度の大きさになる時間が数時間)というものです。数時間なら確実に予言できるけれど、それを越えれば網が蝶を捕まえられるかどうかはサイコロの世界の問題になるわけです。

つまり、気象学者のもつ網は蝶を数時間しか追うことができない。いくら網を大きくしてもあまり効果はなく、数時間すれば網から抜け出た蝶と見当違いなところを網は動くことになります。ちなみに、左上の図はオレルの博士論文の最後のページに描かれていたものですが、すでの網の中に蝶はいませんし、この後網が蝶をとらえるかどうかはサイコロ次第。

2010年10月23日土曜日

のぼうの城


爽快。読後感はこの一語に尽きます。

石田三成VS成田長親。三成は有名ですが、成田長親の名はこの本で初めて知りました。秀吉の小田原・北条攻めで、関東の北条配下の地の掃討戦を任された三成。その前に立ちはだかったのが、今の埼玉県行田市の武州・忍城。この本は北条氏の降伏まで白旗を上げることなく奮戦した忍城の様子を描いたものです。

忍城の城主・成田氏長は秀吉に通じ、秘密裏に開城し降伏せよと命じて自らは小田原城につめてい。しかし「のぼう様」こと長親は三成軍の態度に我慢がならず交戦に決定。三成率いる豊臣軍の力攻め、水攻めを跳ね返してしまう。その様の痛快かつ爽快なこと。

最後に開城の使者として三成が忍城の面々と会うのですが、そこでの三成の発言。
「この忍城攻め、当方には甚だ迷惑ながら、坂東武者の武辺を物語るものとして、百年の後も語り継がれるであろう」「よき戦にござった」そして、陣に戻る途中、大谷吉継に「負けた、負けた、完敗じゃ」と叫ぶ。

映画化がきまっているそうです。野村萬斎さんと「のぼう」様のイメージが合わないのですが、楽しみです。

2010年10月17日日曜日

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方



今の日本は「みんななかよく」でやっていくには、そのコストが高くなり、無理になってしまった。では、「みんななかよく」で、自分のコミットする集団に閉じこもって「安心」するのではなく、よりオープンに他人と関係を築いていくには、どうすればいいのか。それには、「信頼」が重要である。

この本の面白いのは5章。コミットする集団で生き残るためには、集団内の人間関係の予測が大事。それは、コミットする集団外の他人(以下、「他人」)が信用できるかどうかの予測とは関係のない。「他人」を信頼する人は、知識レベルも高く、また、「他人」が信頼に値するかどうかの識別能力が優秀だが、コミットする集団内の人間関係の予測は普通。「他人」の識別能力は「他人」の立場になって考えられることなので、共感する能力も高い。一方、「「他人」を見たら泥棒と思え」と考える人は、「他人」の識別能力が劣るけれど、コミットする集団内部での人間関係の把握には優れている。「他人」の立場になって考えられないので「他人」に共感もせず、そのため大事なはずのコミットする集団への帰属感も弱く孤独を感じている。

池田氏のブログを読んでいると、日本は中間集団が圧倒的に強く、そこでの失敗は致命的。他の中間集団への移動も難しい。そこで生き残るには、集団外の人間を排除し、集団内部の人間関係を把握しなかればならない。でも、そうした集団が好きなわけでもなく、飲み屋ではコミットする集団の他人の噂と上司の悪口ばかり、とよく書かれています。

でも、そうした閉鎖的な社会もこれから崩壊し、「安心」が失われる。その「安心」に代わり「信頼」で新たに他人との関係を築いていく必要がある。それがこの本のタイトルの「安心社会から信頼社会へ」の意味。安心が消えることは悪いことではなく、信頼できる「他人」をしっかり信頼していけば、未来の可能性は大きくなる。

「他人」を信頼する心は大事にしたいですね。そのほうが面白い研究もできるだろうし。

2010年10月13日水曜日

人VSコンピュータ

人とコンピュータのどちらが賢いのか?チェスに関してはIBMのコンピュータがチェスの世界一を破り、コンピュータのほうが賢いことが示されました。かなり昔の話なので、当時は互角の闘いの末だったのですが、コンピュータの計算速度の向上を考えると、いまはチェスで人がコンピュータに勝つことはないでしょう。

一方、チェスではなく、将棋、囲碁の場合はというと、一度死んだコマが生き返ったり、場合の数が爆発したり、盤面のパターン認識が難しかったりで人間のほうが強い時代が続いていました。しかし、将棋の世界ではそれも終わり。今回は女流名人ですが、羽生さんであっても勝てたかどうかは怪しいものです。仮に勝てても、数年すればコンピュータの進化に負ける。(噂では、情報処理学会が羽生さんに対局を申し込むときに「50周年のいまなら羽生さんが勝てるかもしれないが、数年したら絶対に負けるから、いまがベスト」と口説いたとか。本当か嘘かは知りませんが。)、囲碁も、現時点では人間が強くても、過去の対戦パターンを覚え、先読みの計算速度を上げていけば、コンピュータが人間に勝つのは時間の問題です。

一方、競馬予想を計算機にやらせてみると、単純なロジットモデルに過去のレースのデータをいれただけでは全然勝てない。人の予想の精度がAccuracy Ratio(AR)で測って68%、ロジットモデルでは、20数個のファクターをいれても57%程度で、差は10%近い。これは、天気予報で言えば、明日の雨が降るのか、と明後日雨が降るのか、の一日の差程度で結構大きい。では、「競馬ファンが賢い」、「競馬ファンの予想はコンピュータよりもすごい」と言えるかというと、そうとも言いきれない。まだよくは分かりませんが、競馬ファンの予想精度のもとになる情報は、結局競馬新聞の情報であって、本命、対抗、穴馬といった印が馬券の投票によって集約されたもの。もちろん、競馬ファンがまったく予想精度の向上に寄与していないわけではなく、ARで言えば+2%程度は貢献しているのですが、68%のうちの66%が競馬新聞で+2%だけが競馬ファンの貢献とすると、「競馬ファンの予想精度はすごい」とは言えないです。(このあたりの数字とその解釈はまだ確信がないのですが。)

つまり競馬予想においては、競馬ファンの集団知がオッズを通して集約され、高精度の予想を行っているのではなく、競馬新聞の予想記事を書く人々の専門家の知が競馬ファンの投票を通してまとまっているだけ。その予想にコンピュータの単純なプログラムでは勝てない。すごいのは記者という専門家であって、競馬ファンではない。そして、問題は「競馬新聞の記者がどう予想するのか」を明かにし、「それをいかにプログラムに組み込むのか」ということになります。専門家の予想精度66%を再現する予想アルゴリズムを明かにし、ロジットモデルの57%を66%に向上させる。

将棋や囲碁ならコンピュータが人に勝つとニュースになりますが、競馬予想の場合、競馬ファンの形成するオッズに予想精度で勝っても、それが事実なら公表はしないし(どうやったかは)、ニュースにもならないでしょう。情報処理学会が総力をあげて競馬予想をして、それを販売すれば学会費を無料化とか、研究資金援助とか、いろいろ出来ると思うのですが。「将棋で勝っても日本人の将棋ファンしか興味を持たないぞ」と思うのは私だけなのでしょうか。

2010年10月10日日曜日

Kindle 3


ドキュメントスキャナで本をPDF化、いわゆる「自炊」したあとは、読むためのデバイスが必要になります。そこで、アマゾンのKindle3という電子書籍リーダーを買ってみました。Kindle 3はアマゾンの電子書籍リーダーの一番新しいもので、画面サイズは画面サイズが6インチ(実測では縦12.3、横9センチ)。値段はWIFI板で139ドル。論文を読むなら、A4が等倍スケールで読めるものがいいのですが、表示画面が30センチ、20センチでバカデカくなるのと、そういうデバイスがない。Kindle3ではなく、Kindle DXだと、9.7インチで、値段が倍(3Gで379ドル)ぐらい違う。

迷ったのですが、今回は電子書籍リーダーとはどんなものか試してみたかったので、Kindle3にしました。学生さんに講義ノートを配るのでも、コピーや印刷といった紙ではなく、電子ファイルのダウンロードに移行したいので、そのチェックもかねて。

結論からいえば、Kindle3は読む本を選ぶ。また、自炊で作成したPDFファイルだと、もうすこし高機能のものがいい。まず、画面が小さいので、文庫本程度のものを自炊したものなら読めるのですが、単行本だと文字が小さくなりすぎる。左上の画像は、「芭蕉はどんな旅をしたのか」のあるページ。この本は江戸時代地の貨幣価値に興味があって読んでいたのですが、上下2段になっていて、ファイルをそのまま表示すると文字が非常に小さい。読めないことはないのですが。表示スケールを1.5倍にしたのが画像の状況で、これなら楽に読める。Kindle3の画面サイズは文庫本が一番あっている感じです。あと、自炊のPDFファイルの場合は、ページによっては薄くかすれたようになることがあるのですが、その場合のコントラストの補正を手動で行わないといけない。これも面倒。

つまり、文庫本ならKindle3、単行本ならKindle DXぐらいの画面サイズが必要で、また自炊のPDFファイルを快適に読むなら、Kindle3よりもっと高機能のものが便利。電子書籍がもっと広まれば、自炊する必要もないのでしょうが。ソニーや他のメーカーの電子書籍リーダーに期待したいものです。リーダー自体は非常に便利なので。

追記:自炊しか電子書籍の供給がないなら、電子書籍リーダーは流行らないでしょう。しかし、電子書籍リーダーの略語、代名詞はなんになるのでしょう。あと、Kindle3の6インチの画面サイズは文庫本にはいいのですが、キーボードなどの余分なもののために、携帯性にはすこし欠ける。タッチスクリーンでキーボードを排除し、液晶の外枠はもっと細くしてほしいと、外出時に持ち出してみて思いました。

2010年10月9日土曜日

素数に憑かれた人たち


ある数以下の素数がいくつあるのか。10以下なら2,3,5,7の4個という風にx以下の素数の個数をπ(x)と表すとする。この素数の個数を表す関数π(x)の公式を導いたのがリーマン。その公式は、ゼータ関数ζ(s)のゼロ点ρに関する和が含まれている。リーマン予想とはそのゼロ点ρのうち、(負の偶数ではない)非自明なものの実部が1/2だというもの。リーマン自身は素数の個数の公式(図参章)を導いただけで満足していたみたいで、リーマン予想の部分は自分では証明できないけれど、公式には何の関係もないといってスルー。現在でも証明されていない。

このリーマン予想を丹念に、歴史的な背景も含めて解説した本です。文句なく面白い。後半の量子カオスとの関連とか、コンヌの非可換幾何との関連部分はよくわかりませんが、リーマンが導いた公式(図参照)の証明は、その大部分がトレースできるのが読んでいて非常にうれしくなります。

数学は私も好きな分野ではあるのですが、数学科の講義に出ると、ごく一部のハイパー優秀な数名と、その他大勢の普通に優秀な人に明確に分かれるシビアなところでもある。なので、私は数学(素粒子も)の研究者になることはありませんでしたが、憧れはいまでもあります。その点、物理は役にたつかもしれないけれど、なにが面白いのでしょう。そこが分からず物理学科の講義はほとんどサボったため、いま物理を教えるのに苦労しています。

2010年10月2日土曜日

投票実験の被験者募集のお知らせ

以前に紹介した投票実験の参加者募集のお知らせです。

「三人寄れば文殊の知恵」という諺があります。一人一人の知恵はたいしたことがなくても、三人集まって知恵を寄せ合えば、文殊さまのような素晴らしい知恵が生まれることを言ったものです。でも、果たしてこの諺は正しいのでしょうか?なぜ一人一人では大したことはないのに、三人集まるとパフォーマンスが上がるのでしょうか?こうしたことを実験で検証すべく、投票実験を行うことにしました。

この実験では、難しい二択のクイズに対して、他の人の投票結果の部分的な情報をもとに、各自の正答率を上げるように投票してもらいます。簡単に言えば、「人は空気を読んで投票するのか?」、また、「空気を読めばパフォーマンスがあがるのか」を検証することを目的とします。

また、関連して美人投票の実験を行います。AKBのアイドル5名の顔写真をもとに、「みんなが美人と思うほうに投票した人が勝ち」というルールに設定したとき、人はどう投票するのか?難しいクイズと同じように、他人の投票結果について部分的な情報を与えながら投票してもらい、自分が「かわいい」と思うほうを信じるのか、それとも「他の人はこう思うだろうなと空気を読むのか」を調べるわけです。

実験実施日:10月16,23,30(土)午前9時から午後19時半のうちの2時間半。説明30分、実験2時間

募集対象:北里大学の学生

謝金:3150円(税込み)+正答率上位者(2割弱)に報奨金

ご希望の方は、学部、学年、氏名、希望日時を以下の神田宛にメールしてください。折り返しご連絡します。

なお、人数や時間の都合上、お断りさせていただく場合もあります。ご了承ください。また、メールに書かれた情報は、本実験の連絡のみに用い、それ以外の用途には一切使用しません。

神田:chakkaman0629@excite.co.jp

応募のメールはこちらへ@神田

2010年9月23日木曜日

天才数学者はこう賭ける



ルーレットで勝つにはどうすればいいのか。ルーレットを傾けて、出る数字に法則性をみつければいい。シャノンがそんなことをまじめに研究していたとは知りませんでした。実際にカジノで使うのと同じルーレットを買って研究していたそうです。シャノンは情報科学をほぼ独力で完成させてしまった天才。そして、「情報」の価値をもっともよく知っていたのもシャノンなのでしょう。

この本は、競馬で勝つには、レースを仕組み、その情報を得ることだ、という話から始まります。しかし、いくらレースを仕組んでも、失敗や情報伝達の間違いの可能性がある。つまり、必ずこの馬が勝つとわかっても、全財産を賭ければ、その情報が誤りだった場合、すべてを失う。では、その間違う確率、また、勝つ場合に得るリターンが分かった場合に、どれぐらいお金をつぎ込むのがいいのか。これに答えたのがケリー。ケリー基準は、期待リターンから1引いたエッジをオッズで割った数に対する比率で賭けるのが、長期的な財産の成長率を最大にする方法であることを示す。この、不確定な状況下での最適な財産の分配は、シャノンのノイズがある通信路でエラーなく信号を送ることに対する方法と同じなのだ、というのがこの本の前半。(ただし、このあたりの詳しい解説はないので、自分でちゃんと勉強したくなりました。)

後半は、最初に書いた「ルーレットを傾ければカジノで勝てる」をいっしょにやったソープのブラックジャック必勝法、ヘッジファンドの成功など。結構面白い本です。ケリー基準は、経済学の分野では異端であり、そんなことでジャーナル・オブ・ファイナンスなんかの経済学の正統派の雑誌に投稿するとと一発リジェクトらしい。一方、情報科学者には評判がよく、それ(部分ケリー基準)を使って競馬ではベンターなんかが百万ドル以上儲けたとか。また、オプションのブラックショールズの公式もソープは知っていたらしく、発表せずにそれを使ってもうけていたそうです。

必勝法が分かっても、それを秘密にしておくのは非常に難しいのでしょうね。ベンターらの競馬のロジットモデルも、秘密にしておけば、毎年数億円を稼げる手法なのに、しばらくうまくいくと話してしまい、数百もの競馬ファンドがしのぎを削る世界になったそうです。その点、ソープはノーベル経済学賞の価値のあるブラック・ショールズの公式を発表もせず、せっせと金儲けに徹する。素晴らしい。(手前みそで、眉つばかも知れませんが。)

2010年9月16日木曜日

投票実験のテスト


人の投票行動、特に「空気を読んで」投票するのかどうか、といったことを実験しようと考えています。今日、3年生むけに研究紹介を行う機会があったので、1年生にも話した「ドラゴン桜」の話をやったあと、投票実験の試行を行ってみました。講義の参加者は29名。(3年生はもっと多いのですが。必修のはずなのに)

難しい二択の問題を用意し、まず、自分の知識で正しいと思うほうを選択する。次に、一人ひとりが順番に投票し、その投票結果を板書する。投票者は投票時点で、それまでの投票結果をもとに自分の選択を変更することができる。

用いた問題は、「テルミンは世界初の電子楽器である」に対して、○と×の二択。29人の投票結果は、

××××○○××××××××○(×に変更)×○(×に変更)×○××○(×に変更)××××○○○

で○が9人(6人)、×が20人(23人)

正解は○で、多数決は間違い。3人ほど自分の決定を○から×に変えていますが、この場合は空気を読まないほうがよかったことになります。

もうひとつの投票実験は、いわゆる美人投票で、女性の写真を用意し、どちらがかわいいと思うかで投票。ただし、かわいいと多数決で決まったほうに投票した人は、報酬が与えられると説明(今回は試行なのでなし)し、多数派になるインセンティブを与える。

用いた女性の写真は、AKB48の大島さん(No.1)と篠田さん(No.3)。(私は大島さんVS前田さんと思ってましたが、実験を準備してくた卒研生はこの組み合わせを選択。ちなみに、彼らの意見では、篠田さん3票、大島さん1票で篠田さんがかわいいらしい。)

29人の投票結果は、

大大篠大篠大篠篠大大篠大篠篠大大篠大篠(大に変更)大大篠(大に変更)大篠篠篠篠篠大

で、大島さんが14票(16票)、篠田さんが15票(13票)で、他人に影響されない場合はかわいいのは篠田さん、空気を読んでしまうと、大島さんとなりました。後半に、大島さん優勢の状況で篠田さんから大島さんに変えてしまう人が出ています。それ以降、篠田さんに票が連続して入っていますが、ここは女子学生が連続して投票しているところ。女子学生は篠田さんのほうがかわいいと思うのか。また、実験の趣旨がわかっていなかったのか。報酬は今回はないのですが、本来なら自分たちの順番から考えて、大島さん勝ちに流れるはずなのですが。(ちなみに、私の娘(4歳)の意見では大島さんがかわいいらしいです。)

この投票実験、果たして面白い結果が出るのでしょうか。

2010年9月15日水曜日

自炊



本を裁断し、スキャナで取り込んでPDFなどにファイル(電子)化することを「自炊」と呼ぶようです。本来なら、ネットで電子化されたファイルを買うのが正しいのでしょうが、日本ではなかなか進まないため、自分の本を自分でファイル化するしかない。そのファイル化で評判のよいドキュメントスキャナを買ってみました。富士通のScansnap1500というもの。自炊には本の裁断機もあったほうがいいらしいのですが、今回は手とハサミで挑戦。

まず、コンピ指数という日刊スポーツの競馬予想の過去のデータが掲載されている「コンピ指数データバイブル2009秋」を分解し、スキャンしてみました。スキャンはスムーズ。何回かに分ける必要がありますが、すぐに完了します。問題はデータ化の部分。付属のソフトにエクセルへの変換機能があるので、使ってみたのですが、使えません。レース名は変に変換されるし、馬番と指数の部分も微妙に崩れてしまう。やはり、最後は人力での入力を行うしかないのかもしれません。

ちなみに、今季の講義で使っているキッテルの「固体物理第8版」やゼミで使用中の今野先生、井手先生の「複雑ネットワーク」のスキャンは、スムーズに完了しました。あとはKindleでも買えば、データーの可搬性が増して便利そうです。

Ozawa bows out



The Economistが面白いと教えてもらったので、さっそく民主党の代表選挙結果の記事を読んでみました。WEBページを開いて目に飛び込んできたのが、小沢さんが管さんにお辞儀する場面。外国のメディアは、なぜこうした象徴的な場面を切り取るのがうまいのか。その選択が正しいかどうかは別にしてですが。

記事では、管さんが勝ってよかった、となっています。日本は、これまでのような集団ではなく、個人が活躍する社会になる必要がある。そのためには管氏がベストとは思わないし、まだ数年はかかるだろうけれど、管でよかったと。

果たしてそうなのか?小沢さんでも管さんでも、既得権者優先でバラマキ路線は同じ。程度の違いのみ。日本は一度焼け野原にならないと、リセットできないでしょう。それが生物学的にも正しいという意見もあるし。

2010年9月6日月曜日

雷鳥



立山&五色が原のハイキングで見つけた雷鳥の写真。立山から薬師岳への縦走ルートの途中に龍王岳があり、そこでの1コマ。雷鳥を見るのは、高校の時以来なので、四半世紀ぶりぐらいになります。

初日に訪れた立山(3015)は天気が悪く(しかし、下界は快晴だったとか)、霧、雲で真っ白で何も見えませんでしたが、2日目の一の越から五色が原(2490)、黒部湖へのハイキングでは快晴に恵まれ、龍王岳(2877)、鬼岳、獅子岳(2714)、鳶山(2626)と2500m以上の山々を縦走でき、北アルプスの夏を堪能できました。

ちなみに、獅子岳の山頂でECA268でお湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れたのですが、固形燃料2個を使っても400ccのお湯は沸騰しませんでした。付属のアルコールストーブを使う必要があるみたいです。

2010年8月29日日曜日

チタンマグポット500ストーブセット ECA268



今週末の北アルプス登山用に買ったストーブセット、エバーニューのECA268が届いたので、さっそく実験。これは、アルコールストーブとスタンド、500ccのマグカップがセットになったもので、チタン製のため非常に軽い。高校時代、登山部ではラジウスというガソリンストーブでお湯を沸かしたので、今回はガスストーブの手ごろなものを探していたのですが、その過程でアルコールストーブなるものを目にしたのです。トランギアのも武骨でいい感じなのですが、アマゾンのレビューを見ると「重い」とあったので、チタン製で軽いこのセットを選択。

メチルアルコールが手元にないので、チーズホンデュのときに使う固形アルコール燃料で水を沸かしてみました。400ccの水をマグカップにいれ、アルコールランプをセットせずに、パワープレートという板状のものをスタンドの底に置き、燃料をセットして点火。勝手がわからず、スタンドを完全にセットする前にやってしまったので、マグカップをセットするのに時間がかかり、結局水が沸騰するまえにタイムアップ。燃料が燃え尽きてしまいました。けれど、結構温度は上がっていたので、300cc程度なら固形燃料一個で十分かもしれません。

今回の失敗は、パワープレートの上で燃料を燃やしたため、パワープレートの穴を通して溶けた燃料の一部が下にもれてしまったことです。木のまな板の上で実験を行ったのですが、終了後確認すると、もれた燃料の一部が固まっていました。プレートの上に紙をひいて、その上で燃やすのがいいかもしれません。

今週末の立山・五色が原のハイキングでさっそく使ってみようと思います。

2010年8月25日水曜日

悲惨な未来

今日は教員研修で、リクルートの方の話を伺ったのですが、結構大学の未来は悲惨でした。結論から言えば、私立大学なら上位20校は生き残るけれど、それ以外は全滅。過去10年の間に上位20校の学生の比率は40%から50%まで上昇し、一方、それ以外の570校は減少。その上位20校は、早稲田、明治、日大に始まり、11位に青山、14位に慶応、18位専修、19位駒沢など。高校の指導も、こうした大学への進学が実績になるので、この二極化はさらに進む。

一方、これからの10年に目を向けると、学生数(18歳人口)は120万を維持する。けれど、2015年ごろから徐々に減りはじめ、2025年には100万、2040年に61万人で、現在の大学の定員と同じになる。つまり進学率が100%でようやく定員を確保できるレベル。進学率が50%なら、上位20校でカバーできるので、その他の大学は全滅。2070年には30万、2100年には15万で、こうした数字と通りにすすむとは限りませんが。つまり、大学がまあまあ安泰なのはここ10年で、それ以降は壊滅するのでしょう。2040年は、私は引退しているでしょうが、年金はもらえるわけがないことがよくわかります。

で、対策としては、
(1)いまいる大学をよりよくし、学生さんにたくさんきてもらえるようにする。
(2)頑張って研究し、上位20の私立大学か国公立の大学に移籍する。
の二つあるわけですが、どちらの選択肢が個人として正しいのでしょう。難しいといえば難しいし、自明とえば自明。いづれにせよ研究は頑張り、広報活動をしっかりして学生さんにアピールするのは必須のようです。

2010年8月23日月曜日

プリオン説はほんとうか?



タイトルの通り、牛の狂牛病や羊のスクレイピー、人のヤコブ病などのプリオン病の病因は本当にプリオンタンパク質なのか、を丹念に解説した本。異常なプリオンタンパク質が病因であり、動物に存在する正常なプリオンタンパク質に接すると、異常なプリオンに変化させ、それが進行するとプリオン病になる。細菌やウイルスといった、ゲノムをもったものが病因ではなく、タンパク質がプリオン病を引き起こすのだという新しいメカニズムの発見と、プリオン病のマーカーとしての異常プリオンタンパク質の発見に対し、1997年プルシナーはノーベル賞を受賞。

本書を読むと、プルシナーの唱えるプリオンタンパク質の病因説はまだ実証されたわけではなく、むしろ微小ウイルスが病因なのだろうなと説得されます。そういう点はおいておくとしても、プリオン説、反対仮説などを詳細に説明し、実験結果から何が主張でき、なにが主張できないかを分かりやすく説明していて、非常に楽しめる本でした。

この本がいいと勧めてくれた友人は「プリオンの研究がしたい」と言ってましたが、私はやりたくないです。生物は実験が大変すぎる。プリオンタンパク質がどの程度感染力をもつかどうか調べるのに、10匹のマウスで感染をみて、10倍に希釈して、再度10匹のマウスで感染を調べ、これを感染するマウスがいなくなるまでやる。100匹使えば、10のマイナス10乗倍の希釈までは2ヶ月で実験できるわけですが、それで分かるのはもとの試料感染力だけ。私には無理です。

2010年8月15日日曜日

ひまわり畑



テレビ(たぶんめざましテレビ)で座間市のひまわり畑が紹介されたので、今日見に行ってきました。座間駅からタクシーで980円。帰りは配車してもらって1160円。バスが1時間に1本なので、タクシーか車しかアクセスがない。まわりには水などの販売機はなく、売っているのはひまわりの生花(200円)のみ。今週末に「ひまわり祭」を行うようですが、すでに満開でした。きつい照り返し、土から立ち上るむっとした水蒸気。でも夏もそろそろ終わりですね。

最近、地もとのお祭り見物にいくことが多いのですが、結構どこも盛況です。今週末は相模大野でも「もんじぇ祭り」です。

2010年8月7日土曜日

親鸞



ワンピースと親鸞のどちらが面白いか、という論争?がどこかのラジオ番組であったそうで、そこまで面白いのかどうか検証のため読んでみました。

親鸞といえば、「善人なおもて往生する。いわんや悪人おや」というのが有名で、その言葉がどういう過程で生まれてくるのかにも興味があったのですが、どうも、それは親鸞のオリジナルではなく、親鸞の師にあたる法然のまわりでは、普通のアイデアだったみたいです。親鸞のすごいのは、「すべての人は悪人である」というアイデアにまで突き詰めていくところなのでしょう。

ワンピースより面白いかどうかですが、私にはワンピースのほうが面白いです。

2010年7月31日土曜日

大学WEBサイトセミナー

2010年6月10日、7月28日、株式会社ディスコ木村氏によるWEBセミナーの備忘録

1.ポジショニング
(1)ユーザビリティー55点(1位徳島95点)
(2)WEBサイトのアクセス数は750校中26位
視聴率1.3%(1位東大4.5%、2位慶応4.1%、Yahoo85%、Google55%)、平均視聴回数=2.2、平均視聴ページ=8.3ページ。視聴率は1300人のモニターの統計データ。
全国の大学の中で26位だけれど、本当は5,60位くらい(半分は病院)大学を知っている人しか来ない
(3)DARの判定:アクセス数は多いが、ユーザビリティーは低い。

2.トップページのFirstViewで95%のクリック率(下のほうは誰も押さない)
受験生はライトユーザー=必要に迫られたときに1,2ページ見るだけ、見つからないとすぐにあきらめる。女子高生は携帯がメイン、男子高生は家のPCで情報検索を行う。大学の検索をどうしたか在校生にアンケートをとったほうがよい。

3.アクセスログはWEBマーケッティングの必須アイテム、とくにリファラー(検索ワード)が重要。3つのキーワード=「訪問理由」「集客力」「誘導力」。なんらかの理由でWEBに来ている。それに応えるコンテンツを用意。

4.4月21日のデータの解析結果
訪問者約8000人、閲覧ページ約40000、一人当たり5ページ.
検索エンジン:Yahoo55%、Google42%。普通よりGoogleの比率が高い。高校生はYahooを使うので、普通ではない(高校生以外が多数いる)。
参照サイト=医学図書館、大学病院
トップページ入り口率=32%、直帰率=27%、サイト全体の直帰率36%
直帰率が低い=ちがうキーワードで来ている人がすくない=検索エンジン対策ができていない。

5.キーワード分析:大学に関する固有名詞65%、病院に関するもの=17%の計82%
あるカイロプラクティックの店では、キーワードの分析をもとに「顔のゆがみ」のコンテンツをトップページにもってきてアクセス数、売り上げが急上昇。

6.大学WEBサイトの分数式:資料請求数%アクセス数。分母、分子をいかに大きくするか。

7.アクセス数をあげるにはキーワードのアクセス数VSランクのロングテールで、上位のワードのアクセス数の増加は至難。だが、ロングテール部分は比較的容易。それで成功したのが龍谷大学。入試広報が徹底的にリファラーを分析し、検索ワードに対応するページを作成。
大学サイトでクラブ活動のPageの人気が高い、しかしそれを顧客に変える(コンバージョン)方向にはあまり力がいれられていない
コンバージョン率は0.95%。それをあげるには?

8.SEOの観点:「オープンキャンパス 薬学」で検索しても、100位以下。誰も見ないし、もちろんこない。

9.サイトマップをひっくり返す。昔はルートから降りて、登ってをくりかえしてWEBを読んでくれた。いまは、下にたどるのがメイン。下に下にたどるだけでよいようなサイトの構成を。

10. Another HTML lint gateway。HTMLの文法チェックのサイト

以上です。木村氏の話は分かりやすく、面白いものでした。

2010年7月30日金曜日

The Catcher in the Rye


ケアンズの出張中にで読んでいた本。原書ではなく、村上春樹訳のもの。いわゆる「ライ麦畑でつかまえて」ですが、タイトルには、英語+「キャッチャー・イン・ザ・ライ」だけ。

攻殻機動隊のStand Alone Complexで、アオイが自問自答した 『I'd pretend I was one of those deaf-mutes(+should I?)』というフレーズが気になったので読んでみました。読めば読むほど、アオイ少年と本の主人公ホールデンが重なる。ホールデンの口調がアオイ少年と非常に似ていて、ホールデンが「少佐以上の」超A級ハッカー(クラッカーが正しい)なら、アオイになるのだろうと、勝手に思いながら読みました。(また、アニメではトグサとアオイの印象が妙にダブっていたのですが、Wikipediaに『「笑い男は若い頃のトグサのような人間なのだろう」と意識しながら演じたという。』という山寺氏のコメントを見つけ納得。)

妹のフィービィーに、「ライ麦畑でつかまえたら」を「『ライ麦畑で出会ったら』っていうのよ」と教えられる場面が後半にあります。そのとき、ホールデンは『・・・何千人もの子供たちがいるんだけど、ほかには誰もいない。つまりちゃんとした大人みたいなのは一人もいないんだよ。僕の他にはね。それで僕はそのへんのクレイジーな崖っぷちに立っているわけさ。で、僕がそこで何をするかっていうとさ、誰かその崖から落ちそうになる子供がいると、かたっぱしからつかまえるんだよ。・・・そういうのを朝から晩までずっとやっている。ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ。I'd just be the catcher in the rye and all. 』

攻殻機動隊の「笑い男事件」がなければ、読まなかった本ではあります。「若いときはこういう風に感じていたよね」的な共感は感じられる本ではあり、まったくつまらない本ということはないです。村上春樹氏の解説は読んでみたかったですね。「著者の要請により、それが不可能になりました」という末尾の一文は残念です。

2010年7月18日日曜日

ケアンズ



StatPhys24という統計物理の国際会議のためケアンズに来ました。StatPhysは3年に一度、統計物理の全分野の研究者が集まる会議で、参加するのは前回のジェノバでのStatPhys23からの2回目。朝6時に到着し、ケアンズのエスプラネード通りという海に一番近い通りのコンドミニアムに7時着。コンドミニアムからは、トリニティー湾やラグーン、ラグーン・プールも見晴らせるすばらしいロケーションでした。近くを散策後、エアの疲れもあり、そのまま昼寝。明日からの会議が楽しみです。

もっとも、前回の参加の経験からは、統計物理ってこのままで大丈夫?という印象を抱いたので、そういうのを吹き飛ばすほどの面白い講演を期待したいものです。

ちなみに、コンドミニアムは、蟻さんがたくさんいるところを除けば快適です。蟻は、熱帯のリゾートなのだから仕方がないのでしょう。

2010年6月29日火曜日

Rで1次元セルオートマトン(ラスト)



Rで1次元セルオートマトンの続きです。これで最後(のつもり)。

今日「物理学実験I」という1年生の発表会の1回目が無事に終わりました。私のグループはウルフラムのセルオートマトン(CA)の最初の論文を読んで、情報演習室でシミュレーションを行い、その結果をもとにプレゼン資料を作成し発表するというもの。担当した15名を6+9名の2チームに分け、今日はセルオートマトンの基礎とライフゲームの紹介。来週がメインのCAのシミュレーションと渋滞学への応用。原著論文を読み、シミュレーションを実行して、内容を検証し、さらに渋滞の相転移までやって、プレゼンするという、どう考えてもミッションインポシブル(4回でやるので)。けれど、頑張って理解し、プレゼン資料をしっかり作成してく学生もいたり、その点では無理を承知でやったのには意味があったのかも知れません。来週の発表が見ものです。

この演習用に作成したファイルがCA_20100622.pdfと、RのスクリプトのCA.R,CA_Rule_no.R,CA_Traffic.Rです。ようやくRに慣れてきた気がしますが、まだまだグラフィック関係が使いこなせないので、もっと精進が必要みたいです。CA.Rがルールを手で与えてシミュレーションするもの、CA_Rule_no.Rがルール番号を与えてシミュレーションするもの。CA_Traffic.Rがルール184でシミュレーションし、流量を計算するもの。(詳しくはPDFファイルをご参照ください。)ウルフラムの論文を再現するつもりでしたが、フラクタル次元のところで力尽きています。

左の図は、車(c)が50台入る道で右側に車が進行する様子をシミュレートしたもの。車の台数を「「渋滞相」の一歩手前の「自由流相」になるように25台としています。最初の頃は、団子状態の小さな渋滞が発生していますが、すぐにほどけ、車、スペース、車、スペースと交互に車とスペースが連続する状態に変化していきます。車の流量も最大。26台以上だと、こうした配置が不可能なので、流量が減少に転じ、車の台数の増加とともに、流量は単調に減少していきます。右下図は、x軸が車の台数、y軸が流量(動いた車の台数)をプロットしたもの。25台のときに流量が最大で、それ以降では減少。



実際の渋滞では、自由流相と渋滞相の相転移の際に、不安定な「準安定状態」が存在する。、それを説明するモデルとして西成氏がスロースタートという性質(とまった車は急に進めない)をCAのモデルに加味し説明に成功。モデルが面白いかどうかは別にして、準安定状態を発見したのが西成氏の偉いところでしょう。

2010年6月28日月曜日

Component Ratios of Independent and Herding Betters in a Racetrack Betting Market



競馬の2番目の論文がやっと完成。もっとも、プレプリントになっただけで、投稿した雑誌のレフェリーとのやりとり、リジェクトされた場合のさらなる修正、別の雑誌への再投稿と、これからどうなるのかは予想できません。1番目の論文結局1年半かかってしまったし。

この論文のポイントは、得票率と予想の精度の最終的な値への収束に「べき乗則」が見られるという発見がメイン。べき乗則で収束するということは、投票で多数の人々がコンセンサスに達するには非常に長い時間かかることを意味します。これを説明するモデルとして、競馬ファン(投票者)の中で「予想の精度の上昇」に貢献する、つまり市場に「情報」を持ち込む人々と、単に人気のある馬は強いからと投票し、自分では情報を提供しない人々の投票モデルを考える。すると、得票率と予想精度のべき乗則が説明できる。べき乗則の指数から前者の比率は4分の1。ちゃんと考えて投票しているのは4人に1人となり、また勝馬の平均得票率は2割(5人に1人)なので、ちゃんと考えて投票し、勝馬をあてられているのは20人に1人ということになります。100人中20人は競馬で勝っているけれど、ちゃんと考えて賭けているのはそのうち5人(競馬の神様)で、残り15人は他人のふんどしで勝っているだけ。

もっとも、モデルのパラメータをどう解釈するのかは難しいので、この数字を額面どおりにうけとることはできないのですが。自分では真剣に考えて投票しているつもりでも、大多数の人と同じ考えて投票する場合、「情報を持ち込まない人」と考えるのか、それとも、オリジナリティーはなくても、真剣に考えているので、「情報を持ち込んでいる」と考えるのか、とか。

一昨年の北村君の卒論で競馬の投票の時系列データの解析を始めてからなので、2年近くかかった割には、満足感がすくないです。結論はまあまあ面白いと思うのですが、予想精度のべき乗則の導出がなされていない、数値計算でそれらしい結果が出ただけという点。また、投票の後半、得票率の収束がべき乗則からズレ始めるのですが、その理由がよく分からない。予想精度のほうは、ほぼ最後までべき乗則に従うのに。

ただ、これをちゃんと解決するには、もっと高頻度の投票の時系列データの解析が必要になりそうです。

2010年6月10日木曜日

知性の限界



「理性の限界」が非常に面白かったので、その続編というこの本を読んでみました。結論から言えば、この本も分かりやすく書かれていて、楽しめる本ではあるのですが、「理性の限界」の第3部のゲーデルの不完全性定理から神様の存在証明までの、ワクワク感はなかったです。

昨日まで太陽が昇ったからといって、明日もまた昇る保証はない。同じように、帰納法がこれまでうまくいったからといって、これからもうまくいくとは限らないし、だから帰納法を帰納法では正当化できない。科学とは、反証可能な予言を行い、それで否定されるか、生き残るか、の繰り返しを通して、続けていくもの。その過程で、「真理」に近づいているかどうかは保証の限りではないけれど。

いろいろためになる本です。科学を学ぶ学生さんには是非読んでほしい。

2010年6月5日土曜日

Rで1次元セルオートマトン(続き)



Rで1次元セルオートマトンの続きです。来週からの1年生に演習用に、1次元セルオートマトンをRでシミュレートするプログラムを作成。ルール番号をRのコードに自分でインプットしないといけないですが、全自動だと教育的でないので。あとは、いろんなルール番号でフラクタル次元を求めてみるとか、車の渋滞をシミュレートするにはどういうルールだといいのか、とか、1年生レベルで実験できそうです。こちらの想定を超えたものを持ってくる学生がいれば楽しいですが、果たしてどうか?

右の図は、50サイトの1次元格子に確率30%で1を並べ、ルール184で右に1を移動した様子。ルール184は車の移動を模したもので、前に車がいると移動せず、車がいないなら移動するという最も単純なもの。いわゆるTASEP(完全=Totally 非対称=Asymmetric 単純=Simple 自己排除=Exclusion 過程=Process)と呼ばれるもの。確率50%以上で車を配置すると渋滞が始まることが知られているのですが。

今回作成したファイル:CA.R

2010年5月28日金曜日

理性の限界



「私は嘘つきだ」という自己言及のパラドックス。この発言は「真」なのか「偽」なのか?この発言が「真」なら、発言者は嘘つきになり、発言が「真」であることはない。「偽」なら、「嘘つきではない」ことになり、正直者なので発言は「真」となって矛盾する。では、この発言をどう扱うのか?私は、「嘘つきといってもいつも嘘をつくことはないので、この発言は真であっても矛盾はない」という常識で対処すればパラドックスではない、と考えますが、論理学者は違うようです。「決定不可能命題」と呼んで、真剣にその矛盾の由来を考えている。

「抜き打ちテスト」のパラドックス。教授が「1.明日か明後日に試験する。2.学生は事前に試験がいつ行われるか予測できない。」と掲示し、学生がどう対処するかという問題。「明日試験がなかったなら」、1から明後日しか試験はできないけれど、すると2の予測不可能性に反する。よって「明後日は不可能で、明日しか試験はできない」と予測できることになるが、これも2に反する。結論は、1、2を満たすことは不可能となり、パラドックスである。

これも、常識的に考えると、明日試験がなかった時点で明後日試験が行われることは確定するが、それは明日になるまで分からないので、2には反しない。明後日に試験が可能なので、明日試験をやるかどうかも今日の時点で予測はできないので、1、2に何ら問題はない、となると思うのですが、論理学者はやはり真剣に考える。

この本は、第3部でこうしたパラドックスから「ゲーデルの不完全性定理」を紹介し、2番目のパラドックスが「真」か「偽」か決定できない「ゲーデル命題」だということを解説しています。通常の論理の世界は完全で「証明と真理」は同一である。一方、自然数まで含む世界では「不完全性」が成立する。真の命題でも証明不可能なものもある。有名な整数論の未解決問題、例えば「4以上の偶数は、素数の和である」が証明できないのも、数学者の努力が足りないからではなく、真か偽か決定できない「ゲーデル命題」だからかもしれないわけです。

抜き打ちテストのパラドックスは相互言及のパラドックスであり、「君は私が嘘つきだと信じる」という命題と同じ構造である。この命題は「私は嘘つきだ」という自己言及のパラドックスの命題とは「君と私」+「信じる」の2点で異なります。「君」がこの命題を信じると偽になり、信じないと真になる。この相互言及のパラドックスもゲーデル命題であり、人間の論理的な思考にはこうした不完全性が必ず入りこんでしまう。さらに、神様がこの世にいるとしても、それが全知全能ですべての命題の真偽を知ることは、ゲーデルの不完全性定理に反するので、神の存在は人間の論理を超越した存在でなければならない。

第一部、第二部は私的にはイマイチでしたが、討論形式で分かりやすいです。第3部は分からない部分もあるのですが、神様の存在まで議論する展開が面白い。ゲーデルの不完全性定理も勉強してみたくなりました。オススメです。

2010年5月27日木曜日

Rで一次元セルオートマトン



渋滞学の西成氏を理学特別講義に呼んだとき、彼の扱ったセルオートマトンの話の学生さんの受けが非常によかったので、1年生むけの演習を担当するときに「セルオートマトン」を取り上げています。Wikipediaでざっと眺めてから、今年はWolframの論文Cellular Automata as Simple Self-Organizing Systems (1982)を読んでいるのですが、さすがに1次元セルオートマトンでも黒板やノートでその時間変化を追うのは結構つらい。といって、いきなりCでプログラムを書かせるわけにもいかないし、また書かせたとしても、それをどこで実行するのかという問題もある。大学に来ないとできない、ではなく、自分のパソコンで簡単に実行できるのが望ましい。(この演習なるものが、学生さんが自分で実験、研究をし、それをプレゼンするというのが目標なので。そうじゃないなら、論文読んで「ハイおしまい」で楽なのですが。)

そこで、Rで一次元セルオートマトンのプログラムを作成してみました。いろいろ他のサイトで情報を探したのですが、研究レベルのものしか見つからなかったので。まだ、RやRでの関数の作成に不慣れなのですが、なんとかルール90でシェルピンスキーギャスケットの描画には成功。あとは、学生さんたちが自分でルールをいろいろいじれるように改良しないと。(ちなみに、今回作成したファイルは次のInitial_1.Rrule_90.RT_step_90.Rの3つ。)

3年生むけの数値計算演習もRでやるので、そのいい勉強にもなりました。(というレベルで教えるほうも教えるほうですが。)

2010年5月19日水曜日

統計と確率の基礎


著者は東北大学の服部哲弥先生。数理統計学に関するテキストです。なぜ、この本を読もうと思ったのかは忘れてしまったのですが、アマゾンのランキングや2chでのスレッドの順位の時間変化に関する仕事を検索で見つけて、その流れで買ってみたような記憶があります。基研での確率モデルの研究会で彼の「くりこみ」に関する講演をきいたのですが「結構すごい」と思った記憶も後押ししました。

内容ですが、結構つらいです。難しい。2009年度の大学院の講義でテキストに指定し、そのあと卒論のゼミで続きを扱ったのですが、章末にまわされている証明や計算を負うのは結構大変です。卒論の学生さんたちもグッタリした様子だったので、結局その年には最後まで到達できず。ただ、内容は学生さんには受けがいいみたいで、窓口での並列並び、直列並びの待ち時間の分散、宮城沖地震の予測などのトピックには興味を持ったみたいです。と、前半は興味深いトピックを散りばめながら、基礎的なことを明晰かつ問題意識を明確に展開してある。(ちなみに、院生の一人が神奈川県の地震予測をやったら、恐ろしい結果になりました。)

この本の面白いところは後半です。ベイズ統計、検定、尤度、いろいろ言葉は知っていても、これまでちゃんと統計学を学んだことがなかったので、理解したというレベルではなかったのですが、この本の後半を読むと、いろいろ疑問に思うことに、その疑問を明確にしながら答えてくれる。例えば、検定での棄却域は、第2種の誤りを最小にするように選ぶということをベイズの立場で解釈し、さらに、ワルドの期待効用の理論での解釈も紹介(このあたりは、はしょりすぎでよく分かりませんでしたが)。そして、「・・・合理的意思決定を支援する学問としての統計学という観点から、確率論にもとづく統計学の数学的結論をどのように提供すれば正しく利用してもらえるか、使いやすいか、その問い直しが20世紀後半の数理統計学の歴史の一面にある気がする。・・・その他あらゆる統計学理論に、わかりやすさと誤解の危険がそれぞれあるともいえる。」

統計学は難しい。その難しさを分かりやすく解説してくれるいい本だと思います。が、最初にこの本を読むのは辛いでしょう。やさしい本で学んで、さらに勉強したい場合にはいいと思います。

2010年5月9日日曜日

ケンブリッジの卵



大学4年の卒業研究で神部先生の流体力学の研究室を選択しました。当時(1990年ごろ)の理学部物理学科は夏学期と冬学期で理論と実験などの2研究室でゼミや実験をやるというものでした。素粒子論の研究室にするかどうかで迷ったのですが、いろいろ考えて流体力学の研究室にしました。その神部研究室で助手をされていたのが、本書の著者の下村先生。いっしょにカオスの本を読んでいただいた記憶があります。学会誌でこの本のことを知ったとき、そうした縁もあり、また内容も楽しそうなので、読んでみました。

内容はサブタイトルの「回る卵はなぜ立ち上がりジャンプするのか」を6年にも渡って研究してきた過程が記されています。よくもここまで細かな点まで覚えているなと感心するぐらい詳細に研究の過程が綴られています。これだけ研究がうまくいっているのを読まされると、面白い本だとは思うのですが、うらやましくもなります。私も競馬研究で2本目の論文をまとめているところですが、ネイチャーはおろかPRLでも無理でしょう。努力が足りないのか。

しかし、慶応は2年間のサバティカルで海外に出られるのは羨ましい限り。私のいる大学は、大学の研究費で海外に出ることも禁止なのに。(これは愚痴です。研究費そのものは結構あるのに、理論屋には使い途がない。)

2010年5月6日木曜日

Ubuntu Linux 10.04LTS


Ubuntu Linux の最新版10.04LTSがでたようです。LTSは、長期サポート(Long-term Support)のこと。記事によれば「通常版が半年に1度のリリースであるのに対し、LTS版は2年に1度の頻度でリリースされる」とのことです。

仕事で使うパソコンは、研究用はLinux、事務関係はWindows(XP&7)で、研究用のLinuxをVine LinuxからUbuntu Linux(9.10)に移行しつつありました。今回の最新版10.04TLSもさっそくインストールしてみたのですが、完成度は非常に高いです。

SSDに換装していらい、プチフリでイライラさせられてたノートPC(Vaio Type-G)も、Vine やUbuntu Linuxだと、プチフリもまれで快調だったのですが、SkypeもUbuntu9.10から普通に使えるようになったので、今回Windowsを完全に削除して、Linuxマシンに変身。Windowsだと1分近くかかったサスペンドも復帰も数秒、OSの機動も高速と、Windows XP 時代とは見違えるマシンになりました。

問題はPower Pointが使えなくなることで、学会でのプレゼンのときにどうするかを考える必要があります。Open Office3.2がどの程度使えるのかがまだ分かりませんが、試した範囲では別のPCで作成したPPTを表示させるぐらいなら問題はなさそうです。(学会専用にType Xや宣伝中のVaio New Ultra Mobileを買うこともありですが。)

なにより、デュアルブートをやめて、メンテの対象が減るのがうれしい。Windowsはもう必要がないですね。もっとも、HTML5(やiPad)の時代に、PCのOSがどうのこうのというのも時代錯誤なのでしょうが。

2010年4月29日木曜日

剣岳 点の記



剣岳。高2の夏の最後の合宿として登った山です。部員は5,6名ほどでしたが、一応キャプテン。最高学年に私一人しかいなかったので。中1のときに、立山を起点に五色平をまわるのが雨で立山だけになって以来の北アルプス北部の登山でした。高1のときに槍ヶ岳を登ったので、クラブ活動の締めには剣しかないでしょう、という感じで選んだのを覚えています。

その剣岳を登頂し、三角点を築き、測量した柴崎芳太郎話です。中学のときに新田次郎の作品はすべて読んだと思っていたのですが、この作品は知りませんでした。

最初にDVDを借りて、行けなかった五色平の晩秋の紅葉の美しさ、剣岳の風景に圧倒されました。その点で映画は見る価値があります。浅野忠信、香川照之さんたちの演技がどうのではないです。ひたすら風景が美しいときがあり、それを見るだけで十分。一方、新田氏の原作を読んでいて、もっとも感銘をうけたのは、柴崎がときどき見る日本海の風景でした。小説には日本海の記述はまったくなく、富山湾が見えた、という程度のものしかないのですが。太平洋側に住んでいると、日本海という名詞に反応してしまうのか。

時間を見つけて、剣岳から日本海を見てきたいと思います。今年の秋にでも。

2010年4月25日日曜日

The Alchemist


アンダルシアの羊飼いの少年が、羊飼いの人生に満足せず、自分の運命に従ってエジプトのピラミッドまで足を運び、宝物を見つける話。英語の本ですが、巻末に難しそうな英単語、表現の解説があるので、辞書の必要がなく読めるのは楽でいいです。英会話の先生が昨年読んだ2冊の本の内の一冊で、面白いから読め、というので読んでみました。著者のパウロ・コエーリョはブラジルの作家で、このアルケミストのようなファンタジーっぽいのから、スピリチュアルものを書いているみたいです。この本を読む前に、どういう本を書く人か調べようと、翻訳された「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」を読んだのですが、マリア信仰を題材としたスピリチュアル系のもので、読みはしたけれど、ついてはいけませんでした。

アルケミストは、ファンタジーというか、物語というか、明確に信仰を扱ったものではないので、読みやすいです。アンダルシア、タリファ、タンジール、オアシス、そしてエジプトのギザへと続く旅、その過程でのいろいろな出会い、発見の話。ジプシーの女、年老いた王、クリスタル商人、アルケミスト志望の英国人、オアシスに住むアルケミストや恋人との出会い。また、宝物を探す旅に出たあと、部族間で交戦中のアラブ人に捕まり「3日以内に風になってみせたら命を助ける」という難題への対応。もちろん、お話なのですべてうまくいくのですが、そうしたことを差し引いても、いろいろ教えられ、また楽しめる作品でした。

彼の他の本を読もうとは思いませんが、アルケミストはいい本です。

2010年4月18日日曜日

KPZ方程式はKPZユニバーサリティクラスに入る


昨日開催の第1回数理物理・物性基礎論セミナーに参加して聴いてきた内容です。この研究会は今年から笹本氏たちが立ち上げた統計物理・物性基礎論の情報交換の場で、場所はお茶大の出口さんが提供。なので、お茶大なのですが、正門をくぐって入ろうとしたら、守衛さんに捕まりました。知人は身分証を掲示しながら入ったとのこと。

講演内容は、ASEPとランダム行列の関係が前半、後半はKPZ普遍性の解説と、KPZ方程式の厳密解。前半は、ゆっくりやりすぎて、これじゃ時間的に無理だろうと思っていると案の定時間が足りなくなる。けれど、今まで恐ろしいと思っていたフレドホルム行列式の数値計算での扱い方とかもあり、とっつきやすくなりました。後半のKPZの話は、タイトルの通りで、KPZ方程式(下の式)というランジュバン方程式を厳密にといた。これまで「くりこみ」とかASEPの結果を通して間接的に示されていたKPZ普遍類に、KPZ方程式が入ることを、厳密解で直接的に示したというもの。


KPZなんて二十数年以上まえのトピックではあるのですが、その後の非平衡統計物理の研究成果が積み重なって、普遍性はおろか厳密解まで求められたのは「すばらしい」の一語につきます。(ちなみに、写真は2007年にジェノバでの統計物理の国際会議StatPhys23の会場近くの水族館。)。

彼の講演がおもしろかったので、今学期の数値計算のテーマにASEPとランダム行列を「R」でシミュレーションしてみようかと思いました。悪乗りしすぎかも知れませんが、マジメにやるだけでも面白くないし。

2010年4月16日金曜日

楽園&模倣犯



前畑滋子さんの活躍する小説。楽園を先に読んだのですが、前半、ある少年が持っていた超能力に関する部分はひたすら恐かった。直接的に恐ろしい記述というのは皆無なのに、なぜか気味が悪く、その意味で「この小説はすばらしい」と期待したのです。が、超能力の解明がすすむと、普通のミステリーになってしまい、イマイチ。すごい傑作なのではと期待したのに残念です。

しかし、読む人を引き込む宮部氏の筆力はすごいと思い、前畑滋子が登場した模倣犯を読んでみることに。文庫本で5冊。暗い事件を扱った、その意味では救いもなにもない内容。けれど、宮部さんの書く世界に引き込まれ、一気に読み終えることができる。その点でダン・ブラウンの最新作とは実力が違う。被害者の再生の物語をなぜこんなに書き込めるのか。義男さんにしろ塚田少年にしろ、彼らの記述の説得力だけでも大したものです。

2010年4月8日木曜日

Rによるやさしい統計学



今年の「データ解析と数値計算」演習の「データ解析」の教科書に指定しました。「はじめに」には「文系向け」とあるのですが、統計学や確率論があまり達者でない学生さんには、この本のレベルで統計学の感じをつかんでおくのはいいことだと思います。確率論の足りない部分は、演習の前半にすこし解説して。

何人がRを使えるようになるのか。

2010年3月13日土曜日

ロスト・シンボル



舞台はワシントンD.C.。 「24」のシーズン7の舞台でもあり、「東のエデン」の物語の始まりの地でもある。そこで、ロバート・ラングドンが謎を解きながら、友人を助け、古の知恵の謎を明かにするというもの。24ではなく12。たった一晩の話なのですが、読むのは結構大変でした。

ワシントンにはあまり興味もなく、ホワイトハウスがあるだけかと思っていたのですが、そうではないらしい。内容については、フリーメイソンや古の知識、アメリカの歴史、建築、そして宗教のウンチクに圧倒され楽しめる。

でも、精神エネルギーとか、分子が精神に反応するだとか、そういうことを書かれるとひくしかない。現時点でTOE(Theory of Everything)と考えられているストリング理論も昔の本には書いてあるそうで、10次元時空のうち我々が住む3+1次元時空を除いた残りの6次元のコンパクト化についての解説もあるとか。あと、最後の場面でのピーター・ソロモンの反応、立ち直り方がどうも違和感がある。ネタバレになるのでこれ以上は書きませんが。

ワシントンのガイドブックとフリーメイソンの解説にはいいと思います。映画化も決まっているそうなので、見にいくかもしれません。ワシントンの街並みや建築群を楽しめるだろうし。

2010年3月12日金曜日

天気予報の精度




降水確率に対する降雨率のグラフを見ると、一見7日後のほうが明日よりも合っているように見えます。そこで、AR(Accuracy Ratio)という指標を用いて、気象庁発表の降水確率の精度を計算してみました。

図がその結果です。x軸は予報の時刻から、その予報が対象とする日時のスタートまでの時間。朝5時の予報の場合、当日朝6時から24時までの18時間の予報を対象とする場合は1時間。翌日0時から24時の予報の場合は、19時間。y軸はARの値を示します。

予想通り、予報が対象とする日時に近づけば近づくほどARは上昇する。逆に言えば、週間天気予報の精度は、今日よりも明日、明日よりも明後日のほうが精度は落ちる。明日の予報に関して言えば、午前5時と11時はARが約81%で午後5時だと約83.5%で、その差2.5%はエラーバーの大きさ0.7%の2倍以上なので、午後5時のほうが精度が高い。ただし、3日目以降に関しては、気象庁の人が真剣にやっているように見えるのは午前11時のもので、同日の午後5時や翌日の朝5時の予報の精度はあまり改善されていない。

つまり、明後日までの天気予報は真剣にやるけれど、それ以降の予報は午前11時のみ頑張るという感じです。ちなみに、競馬のオッズのARが約67%(図のピンクの点線)なので、明々後日の天気予報との同程度の精度とも言えます。ARの大小関係だけで、予測の精度を論じるのは問題があるのですが、感じとしては。

2010年3月11日木曜日

降水確率と実際に雨が降った比率(降雨率)の関係




降水確率と実際に雨が降った比率の関係で、イマイチ理解不能なところがありました。それは降水確率と実際に雨が降った比率の関係です。降水確率とは、1mm以上の雨が降る確率のこと。P%なら、100日に対してP日は1ミリ以上の雨が降り、X日なら、PX日降ることが期待される。

ということは、P%の降水確率の日数Xに対し、雨が実際に降った日数Yの比率Y/Xを考えると、大体Pになる。YはほぼPXなので、PX/X=P。

実際に毎日11時発表される気象庁の週間天気予報のデータ(K君に感謝)を使って、Y/X(実際に雨が降った比率R)を計算し、降水確率との関係をプロットしたのが図です。翌日の予報に関しては、6時間おきの降水確率が発表されるので、降水確率はその平均値としています。通常、降水確率は10%刻みですが、6時間おきの4つの降水確率の平均をとると2.5%刻みになります。データ数は約400日分で全部で3万弱の週間予報を用いています。

1週間後から明後日までは降水確率Pと降った比率Rはほぼ一致します。どのデータも対角線P=Rの近くにある。しかし、1週間後から明後日まで、予報した日に近づくにつれてP=Rの関係の成立の度合いは落ちているように見える。

明日に関してはPよりもRのほうがほぼ一貫して大きくなっている。降水確率が15%未満の場合は、RはP以下ですが、それ以上だとRはPより大きく、30%の日の50%、40%の日の70%近くで雨が降っている。

素人考えだと、降水確率を大きめに発表して、傘を持っていくように注意を喚起した方がいいと思うのですが。なぜなのでしょう?6時間おきの降水確率の平均値を明日の降水確率と考えるのが間違っているのでしょうか?不思議です。

追記:英語では、
降水確率=chance of rain, chance of precipitation, rainfall probability
降雨率=rain rate

追記2:上記の疑問ですが、基本的なところで間違っています。ある日の6時間毎の降水確率が
p1,p2,p3,p4のとき、その日1日の降水確率は(p1+p2+p3+p4)/4ではなく、1-(1-p1)(1-p2)(1-p3)(1-p4)。なので、平均値よりも結構大きくなる。これで計算すれば、降水確率と降雨率の一致はよくなるのでしょう。

2010年3月2日火曜日

歴史は「べき乗則」で動く



未来予測は可能なのか?この本の結論も「無理」。ただ、その理由は「べき乗則」「臨界状態」としているところが、モデル誤差にあるとするオレルと異なるところ。

この本で何度も出てくる例が砂山モデルです。板に上から砂粒をひとつづつ落とし、山をゆっくりと作っていく。あるところまでは、山が徐々に高くなっていくだけなのですが、十分山が高くなり、傾斜がきつくなると、砂粒をひと粒落とすだけで、大規模ななだれがおきたり、または何もおきなかったり、小規模ななだれがおきたり、という状態になる。このとき砂山のなだれの大きさ(転がる砂粒の数)と起きる回数を調べると、大きさが2倍で2.14分の1になるというべき乗則に従う。つまり、どんな大規模ななだれであっても起きる可能性はゼロではないわけで、こうした状態のことを臨界状態という。この砂山モデルでは、砂粒を落とすだけで勝手に臨界状態になるので、自己組織化臨界現象(SOC : Self Organized Critical Phenomena)と呼ばれる。

この自己組織化臨界現象の例として、2倍の大きさの地震は頻度は4分の1というグーテンベルグ・リヒター則、壁にたたきつけた凍ったジャガイモの破片の大きさだと2倍の大きさのものは6分の1の比率になる、山火事の場合大きさが2倍になると頻度は2.48分の1、戦争の戦死者の世界人口に対する比率は、比率が2倍になると2.62分の1となる、といった具合。

そして、多数の要素が密接に関連している系では、この臨界状態にあり、そういう系ではどういう規模の変化が起こるのかは全く分からないと結論する。もちろん地震の予測も出来ないし、人間社会もどうなるかは全く分からない。明日世界大戦が勃発することもありえると。

臨界現象、普遍性、べき乗則の説明が非常にうまいので、統計力学の臨界現象の勉強には非常にいい本です。タレブの「ブラックスワン」よりは物理屋には馴染みやすい。逆に、この本は物理に興味のある人しか買わないだろうとも言えるので、あまり売れはしないでしょう。多分。

2010年3月1日月曜日

新聞を解約




以前のブログで日経新聞を解約すべきかどうかと書いたのですが、結局解約しました。電子版の日経新聞が3月に始まると思ったので、2月一杯で。しかし、3月頭ではなく3月23日から開始らしく、ここ3週間ほどは新聞なしの生活です。

電子版の日経ですが、さっそく購読の手続きをしてみました。4月一杯まではフルにアクセスできるみたいなので、その内容次第では月4000円のコースを申し込もうと思います。必要ないと判断すれば無料会員コースのまま。

果たしてどちらを選択するのでしょうか?

追記:結局、有料会員はキャンセルし、無料会員にしました。アクセスしない日はアクセスしないし、それで困ることもないし。しかし、フルアクセスの会員でも小説は読めないというのは、どうなんでしょう。5月以降は変わるのかもしれませんが。

2010年2月28日日曜日

Pommery Brut Royal



シャンパンはプレゼントの定番です。その定番のシャンパンの中でも定番中の定番なのは、モエとヴーヴクリコとこのポメリー。プレゼントにはいいけれど、自分で飲むように買うならスパークリングやカヴァで十分なので、買うこともなく、ポメリーを飲むのはこれで2度目でした。(たしか、一度目はプレゼントに持っていった先で飲みました。)

せっかくのシャンパンなので、シャンパングラスで飲んだのですが、辛口(Brut)で非常に飲みやすい。たしかに、どんな料理にでも合わせられる万能タイプ。ちなみに、Brutのシャンパンを最初に造ったのがポメリーらしい。

追記:このシャンパンは先週の卒論発表の打ち上げ後に卒研生の皆様から頂きました。ありがとう。ちなみに、プレゼントを貰ったのはこの大学に来た年の1997年度のこと以来です。そのときはワイングラスを頂いたのですが、クリスタル製の美しいもので、我が家では花瓶としてほぼ常時活躍しています。

2010年2月27日土曜日

宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-



宮本武蔵。巌流島の佐々木小次郎との決闘が有名です。しかし、彼はそのことついて語ることはなく、自慢していたのは吉岡一門との戦いでした。何故なのか?また、彼の流派は「二天一流」という二刀流なのですが、何故なのか?天とは何なのか?

武蔵は何を目指していたのか?十七のときに関が原の戦に石田三成側で参戦し、騎馬武者にコテンパンにやられたこと。生涯にわたって何度も戦に出ているけれど、たいした働きもなく、それでも戦に出ることにこだわったのは何故なのか?そもそも何故武蔵は強かったのか?

以上の疑問に五輪書という武蔵が遺した兵法書に基づいて押井守氏が答えた原作をベースに作られています。そもそも武士とはどういう存在だったのかをペルシャで成立した騎兵からはじめて近代戦の戦車まで話がとんだり、日露戦争でロシア兵との白兵戦で日本兵が逃げ回ったので、武士道という虚構をでっち上げたのだとか、いろいろ豆知識が面白い。また、アニメもProduction IGなので、レベルは高いです。

一般向けではないとは思いますが、武蔵という人物の見方として面白い作品です。

2010年2月24日水曜日

矢崎先生の退任講演会&パーティー

矢崎先生の退任記念講演会&パーティに関する告知です。みなさんご参加ください。

2010年2月23日火曜日

徹底抗戦



堀江氏がかつて率いたライブドアという会社。株式の100分割とそれによる株価の乱高下を引き起こしたり、独自の技術や理念もなく、その株価の乱高下を巧みに使って、出来たキャッシュでネット企業を買収していく。確かに、金を儲ける才能には長けているし、賢いのでしょうが、ロクデモない企業、企業人だと思っていました。要するに仕手戦をやる株屋と企業買収しか能がないと(私にはそういう才能はありませんが)。が、「ライブドア事件」で逮捕。堀江氏によるライブドア事件の本ということで読んでみました。

結論から言うと、堀江氏が無罪かどうかはともかく、日本の検察の怖さを知るにはいい本かもしれません。ドラマのHEROではキムタク演じる検事が容疑者を徹底的に追求し、弁護士とも戦う文字通りのヒーローとして活躍します。それはドラマだからいいのであって、検察の怖いところは、検事一人一人が独立に動き、捜査権もあり、起訴することが出来る(検察しか起訴できない)オールマイティーなところ。さらに刑事事件に関しては弁護士も検察のOBがほとんどで、独立なはずの裁判官を検事が務めたり(判検交流)もする。要は、検察に目をつけられたらThe End。怖いシステムです。

この状況を知った上で最高裁まで闘う堀江氏は、単なる仕手戦+買収屋ではなかったのかも知れません。彼も書いているように、検察と手を握り有罪を認めて執行猶予を得るのがリターンは最大。一方最高裁までやってもおそらく負けで実刑判決を受けるのなら。もちろん、「徹底抗戦」というポーズかもしれませんが。

しかし、そこまでして検察が堀江氏をつぶす理由は何だったのでしょうね。

追記:「徹底抗戦」と「グルメの嘘」、ほしい人は本棚から持っていってください。早い者勝ち。O君「神の雫23巻」借りています。22巻まではいつでも持っていってください。

2010年2月20日土曜日

グルメの嘘



毎朝チェックしているブログのひとつが友里氏のがあります。グルメ関係のもので、最近外食の回数がメッキリ減ってしまった身としては、関係ない話なのですが結構楽しめる。で、彼が最近書いたグルメガイドでない本ということで読んでみました。

結論からいうと、彼のブログを毎日読んでいると読む必要はない、です。グルメ評論、ジャーナリズムが日本には存在せず、店と書き手の馴れ合いのもと、数多のグルメ本、レストラン案内が出版されている、という指摘。つまりは、本代、雑誌代を払って店の広告を読まされている。まあ、その通りなのでしょうね。一方、ネットの口コミサイトも、サイトがお店からお金を貰い始めると、厳しいレビューに対する規制が入り、信用に欠ける、とも。

でも、私は口コミサイトの情報は、ちゃんとフィルタリングすれば、グルメガイドよりはよっぽど信用できると思っています。たしかに、お店に対する指摘を書くと、変更を求められたりもするし、組織票っぽいレビューもあったりもしますが。(今年のF谷君の研究が正しいなら、一般の人はちゃんと外れをつかまないように選択しているはずなので。)

2010年2月18日木曜日

明日をどこまで計算できるか?



バタフライ効果は有名です。東京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークでハリケーンを引き起こすとか。これは誤解を招きやすい表現で、実際にはそんなことはない。これがいっているのは、カオスとは、初期条件がほんのわずかでも異なると未来は全く異なったものとなりうるという性質のこと。カオスが大気循環のモデルで発見され、運動のパターンが蝶に似ていたので、こうした紛らわしい表現になっているのでしょう。天気予報が難しい理由にバタフライ効果やカオスを挙げるのは間違っている。観測データには限界があるからカオスによりその誤差が急速に大きくなるからではない。その効果もあるかも知れないが別の原因もあると。

この本は、天候、病気、経済(社会)における予測に関するものです。物理学は、天体の運動を記述し、未来予想が可能であることを示しました。それは人類(ニュートン)の偉大な勝利だったのですが、では他の分野でも予想はできるのでしょうか?それに対する答えは「出来ない」。なぜなら、こうしたシステムは正と負のフィードバックが入りこんだ複雑な系であって、簡単な数式で時間変化を表現すること(モデル化)は出来ないから。これが計算規約性と呼ばれる性質。もし、未来を知りたいならその未来まで待つしかないのだと。例えば、ライフゲームも時間変化のルールは単純だけれど、そのパターンの変化をモデル化はできず、どういう時間変化を行うのかはそのルールで動かすしかない。

非常に参考になりました。

2010年2月15日月曜日

ONE PIECE 56巻



「ワンピースはすばらしい。9巻まで読むと絶対に泣けるぐらい感動する」と教えてもらったので、年末あたりから読み始めました。いやー長かった。56巻すべてを妻が借りてきてくれたのですが、その量は紙袋で2個分。こんなの読めるかと思ったのですが、なんとか読みきりました。

まず、「9巻まで読むと必ず泣けるのか」ですが、それはなかった。ナミの生い立ちの話は感動ものかも知れませんが、泣ける泣けると期待して読むと「こんなものか」となってしまう。途中だれてきて、二十数巻のところで止まったのですが、エニエスロビーでニコ・ロビンを助ける話、ゴーイングメリー号とお別れの場面などは確かに感動ものです。すごいと思うのは、いろいろな細かい内容が後の話に伏線となって絡んでくること。

これだけ広げまくった話をこれからどう収束させていくのか楽しみです。これからは日曜朝のアニメで話を追っていきます。私にはコミックの戦闘シーンではゴチャゴチャしていてイマイチどうなっているのか分からないのですが、アニメだとよく分かるので楽しい。というか、「尾田氏は絵が下手なのでは?ストーリー展開などは天才的にすばらしいけれど」と思うのは私だけなのか。

2010年2月14日日曜日

JOVO



母が私の娘の誕生祝に送ってくれたブロックのおもちゃで遊んでいます。デンマークのおもちゃらしいのですが、直方体を組み合わせるレゴとは違い、正三角形、正方形、正五角形の平面形のプレートを端のジョイント構造でつなぐもので、いろいろ形がつくれて結構面白い。ただし、どういう風に作るとどうなるのかは全く説明されていないので、箱に書いてあるような複雑な形はなかなか難しいです。

昨日は黒猫のジジ(魔女の宅急便の黒猫)のようなのを作ってくれと娘に頼まれたので頑張ったのですが、黒の正三角形の数がすくないのと、なかなか猫らしいなで肩の体を作るのが難しくてギブアップ。今日は飛行機のリクエストだったので、がんばってそれらしいのを作ってみました。



結果がこれです。昔、正三角形を張り合わせて作った面がどういう熱力学的な性質を持つのか調べたことがあるのですが、面心立法格子中での研究はイメージが大変でした。こういうおもちゃは楽しいですが、奥が深そうです。

2010年2月11日木曜日

Endeavor Na02mini-V



学生の勉強用にネットブックを買い足しました。エプソンのNa02mini-Vというもの。これでエプソンからはノート2台(NJ1000?)、ネットブック3台(Na01miniNa02mini)、デスクトップ1台(MR4000)の計6台目です。自分の使うノートパソコンはVaioオンリーなのですが、エプソンダイレクトはアフターサービスがよいので、学生用はもっぱらエプソンになっています。

アフターサービスがよいと思うようになった理由は、2台目に買ったノートパソコンが初期不良で、ハードディスクの認識がおかしく、すぐに(2回目の起動時に)動かなくなったのです。それをアフターサービスに連絡するとすぐに交換対応してくれた、というただそれだけのことなのですが。先日もネットブックNa01miniのキートップが破損し、スペースキーの効きも甘いということで、WEBで修理を依頼すると、土曜日に引き取りにきて月曜日には返却。無償期間内だということで、キーボードを全交換なのに修理費もゼロ。ネットブックは単価が安いのに、修理にかかる費用の負担で儲けなど吹っ飛んでしまいそうです。

肝心のNa02miniの印象ですが、Na01mini武骨さはなくなり、デザインはよくなりました。その点はグッド。ただ、タッチパッドのマウスボタンが押しにくく、Na01miniと同じで改善されていない。Linuxに関してはUbuntu9.10を入れると、タッチパッドを自動認識。認識せず仕方がないからマウスをつないで使う必要があるNa01miniよりもその点ではよいです。

以上、学生用にエプソンのPCを買っていますが、自分用のPCとして欲しいかといわれると微妙です。Vaioが持つ色気というか、所有欲をくすぐるものはエプソンのものには全くない。今度は私のノートを買いかえる予定ですが、エプソンは最初から除外するでしょう。

業務連絡:使いたい人は使ってください。Office 2007(Windows XP)とUbuntu Linux9.10が使えます。R、RUBY,TEXは適当にいれてください。

2010年2月2日火曜日

下流大学が日本を滅ぼす!



読んでいてムカつく本。ちょっとひどい。あまりにも上から目線なのと、三流大学の学生を馬鹿にしすぎているのと。研究室の本棚にあってパラパラと眺めていたら、ムカムカきて読んでしまった。ここで悪口をいうために読んだという感じです。

ただ、彼が最後に提案していることは、実現可能性があるかはともかく、正しいとは思います。大学は、幅広く深い教養を身につけ研究、思索にふける場となり、それを求める少数の学生のみ受け入れる。生きていく術を学びたい大多数の学生には職業大学を用意する。そして、いつでも学べる、学びなおせる環境にする。

しかし、なぜこの本が研究室にあったのか?たしかに、北里大学のレベルは一流ではないかも知れないけれど「下流大学」ではない(多分)。もっとも、今年の熱力学の成績には驚いたので、そうなってきたのかも知れませんが。